「無意識の科学」の時代の到来

超心理学研究の第一人者の石川幹人博士は、著書『「超常現象」を本気で科学する』の中に、『これからの科学はどこへ向かうか』という項を設けて「無意識の科学」について論じています。

「現在の科学的探究は、良くも悪くも「意識の科学」です。意識の上で知覚し、思考し、経験した内容を集大成しているのです。ところが、本書で見てきたように、無意識には独自の目的や願望、思考や想像がありそうです。創造性や超心理現象においては、むしろ無意識こそが主役でした。つまり、意識の働きに加えて、無意識の働きに注目した人間研究を発展させることが、その条件なのです。無意識の内容を集大成した「無意識の科学」を探求する道を進むことで、新しい研究の地平が大きく広がるに違いありません。ことによると、現在の科学が構築した世界に匹敵する大きな世界が「無意識の科学」によって発掘できるかもしれないのです」。

ここで言われている「新しい研究の地平」の一つの分野は「複雑系の科学」です。医学博士の佐藤政彦氏も『複雑系は21世紀の魔法のつえ 複雑系の方法序説』の中で言及しています。

「複雑系においては、重ね合わせの原理は通用せず、全体は部分の総和以上のものです。(中略)そのため、複雑系を認識するためには、全体をありのままにとらえる(複雑系を複雑なまま把握する)視点が必要とされるのです。(中略)言いかえれば、複雑系を認識するためには、意識だけではなく、無意識と集合的無意識が大きくかかわってくるのです」。

経済学も社会学も人間を単純なモデル化することで発展してきましたし、医学は人間をパーツ分解して研究を進めてきました。高校で習った力学でも、話を単純化するために、常に「摩擦はないものとして考える」前提の問題しか出ませんでした。

たくさんの要因が絡み合った複雑なものを複雑なままに捉えること。それが「なんとなく」「直観的に」無意識でしか行なえないなら、無意識に具体的な「命令」を書き込める催眠技術には大きく寄与できる部分があるはずなのです。