無意識の膨大な処理能力

オランダのアムステルダム大学のアプ・ダイクステルホイス博士らは、被験者達を3グループに分けた上で、一人ずつ、5枚のポスターから好きなものを選んで持ち帰らせる実験をしました。3つのグループのうち、第一グループはポスターを1分半眺め、選択の理由を書き出してじっくり考えてから選び、第二グループはポスターを眺めて直感で選びました。第三グループの選択方法は複雑で、まずポスターを眺め、その直後に5分間の難しい言葉遊びをして、それからまた眺めて選ぶというものです。

実験から一ヶ月後、「ポスターをいくらなら売るか」と尋ねて、ポスターの選択に対する満足度を測定しました。満足度が最も高かったのは、第三グループでした。

同様の結果は多くの研究者によって確認されています。つまり、意識の力には限界があり、一度に僅かな情報しか処理できないのです。一方の無意識は幾つかの特徴的な相違点に捉われることなく、全体的な判断をうまく行なう、言わば、複雑系の処理をしていると言うのです。

実際に、人間の五感は毎秒1100万要素の情報を脳に送っていて、そのうち約1000万は目から来る情報です。そして、意識が処理できるのは毎秒たった40要素程度。30万倍近い処理能力の違いです。これが、たった5分無意識に判断を委ねるだけで、自分にとって最も好ましい選択ができた、ポスターの実験の背景だったのです。

無意識の働きを研究した米バージニア大学のティモシー・ウィルソン教授は、「フロイトによれば意識は心という氷山の一角だが、実際には『氷山に乗った雪玉』程度」と述べています。だとすれば、多くの催眠術師が言う「催眠術を行なう上で逸らさねばならない意識」は、思いの外、矮小なものと分かるのです。