日本古武道にみる催眠術(2) =他者催眠編=

地上最強の実戦武術と呼ばれる太気至誠拳法(通称「太気拳」)を創始者から直接伝承されたと言う吉田かずお先生は、高度に鍛錬された武道の技も、催眠技術が応用されていると仰います。

仕合では相手の動きに対して、無意識によって体が自動的に反応しなくてはなりません。相手を凝視すれば、緊張系催眠の原理で、変性意識状態になると考えられます。両者が変性意識状態なら、互いに暗示を入れる余地があります。

以前、吉田先生が、「眠狂四郎の映画とかで、刀で円を描いてから相手に切りかかるのも、原理的にはおかしくないんだ」と仰っていました。

遥か昔。名の知れた武芸者が旅に出ると、その噂は人伝いに周辺の村々に伝わります。その噂に尾鰭が付いて、「隣村の道場では全員一瞬で倒したらしい」、「あの剣を見た者はカラダが動かなくなるらしい」などと大袈裟な噂話になって行きます。

迎え撃つ地元の挑戦者は、その噂を耳にしながら修行に励みます。それは、相手の技の誇大イメージを無意識に刷り込む自己催眠になってしまいます。そして仕合本番、変性意識状態になった所で、武芸者が「私の剣を見た者は、カラダは動かず、ただ斬られるのみ」などと言えば、それが暗示となって挑戦者の動きを支配することでしょう。

仮に言葉を言わなくても、武芸者の特定の動作がアンカーとなって、挑戦者に暗示を呼び起こさせることもあるでしょう。眠狂四郎の「円月殺法」も強ちフィクションでは片付けられないことが分かるのでした。