催眠で腸に働きかけて作る“健康生活”

「そもそも、私たちの遠い祖先は、現在のミミズやナメクジのような存在だった。彼らの姿こそが、私たちの原形なのである。彼らはまさに一本の管。口と肛門があり、その間を中空のチューブが貫いている。(中略)脳と呼ぶべき中枢の場所は定かではない。神経細胞は消化管に沿ってそれを取り巻くようにはしご上のネットワークを形成しつつ分布している。(中略)
意外なことに、脳がないとは言え、ミミズは、或る時は葉っぱのどちら側を咥えれば巣穴に運び込むのに都合がいいのか、迷いつつ「考え」さえしているのである。
これらの生命活動は、消化管にそって分布する神経ネットワークによってコントロールされている。もし、彼らに「君の心はどこにあるの?」と訊ねることができ、その答え(中略)彼らはきっと自分の消化管を指すことだろう」。

これは、福岡伸一氏の『新版 動的平衡』に書かれている腸の働きについての文章の書きだしです。実は、大きな脳が存在する人間にも腸の周辺に緻密な神経ネットワークが存在し、脳で情報伝達に用いられている多種類の神経ペプチドと呼ばれるホルモンが、大量に存在することが続く文章で説明されています。そして、著者はこう結論付けるのです。

「消化神経回路網をリトル・ブレインと呼ぶ学者もいる。しかし、それは脳と比べても全然リトルではないほど大掛かりなシステムなのだ。私たちはひょっとすると、この管で考えているのかもしれないのである」。

自律神経が乱れると腸の働きが乱れやすいことが知られています。ストレスでおなかが痛くなりやすいのもこのためです。腸は失調するとむくみ始めはじめ、栄養が細胞にきちんと取り込まれなくなり、肥満となったり、倦怠感や肌荒れなど各種の症状を引き起こします。さらに福岡氏が言うように腸で思考しているのではなくても、自律神経に強く結び付けられているのなら、腸の不調が自律神経を通じて他の器官の不調にまで波及しても不思議ではありません。

自律訓練法は古典的な自己催眠の手法です。自律神経を整え、腸がきちんと働くようにすることで、健康な生活が実現する原理が分かります。