偽記憶を社会問題化したアイリーン・フランクリン事件

1989年から1990年にかけて抑圧された記憶に関わるヒプノセラピーを受けていたカリフォルニア州のアイリーン・フランクリンは、その過程で、1969年に8歳で強姦殺害された親友のスーザン・ネイソンの事件の犯人が自分の父親ジョージであるという記憶を蘇らせました。さらにアイリーンは1976年にもジョージが殺人を犯していると証言したのです。

その結果、ジョージは殺人罪で有罪判決を受け、7年間の投獄の後、逆転無罪を勝ち取りました。彼には覆せないアリバイがあった上にDNA鑑定の結果も一致せず、1969年の事件については、テレビのニュースに基づく記憶であることが分かったのです。その後、ジョージは娘と当時の検察官を告訴しました。この事件の結果、ヒプノセラピーによって蘇った記憶の信憑性は極端に低くなりました。

虐待などの記憶を蘇らせた結果、親を告訴していた患者達が、催眠療法家やセラピストに対して損害賠償を請求する医療過誤訴訟が連続して米国で発生するようになりました。あらぬ理由で家族を引き裂く重大な社会問題として認識されるようになり、「偽記憶症候群」と言う言葉までできたのです。

電子書籍『ポスト構造主義っぽく読み解いてみた! ~「意識が消えてしまった世界」で適応的無意識」を操る最強の技術「催眠」~』でも書いたことですが、人間の記憶は本来非常に好い加減です。催眠技術によって引き出される記憶もその例外ではありません。吉田かずお先生も催眠技術による記憶回復で事件捜査に協力したことがあると言っていますが、記憶から証拠物品のありかを見つけるような、間接的な関わりだったようです。

催眠施術に拠る記憶は特別なもので、正確なものであるという過剰な思い込みが起こした社会問題として、色々な学びがある事件だと思います。