演芸催眠術師のブランドを考える

「催眠術で食べて行けるようにする」と言うと、演芸を見せる催眠術師の姿を思い浮かべる人は多いと思います。マジシャンなどと同様に、有名になれば名前自体がブランドとなって、ひとり歩きを始めます。

ただ、マジシャンと違うことが二つあります。一つは新しい芸がなかなか作りにくいことです。無意識に暗示を書き込む技術である催眠術で、見せられる芸は限られていて、ほとんどやり尽くされています。かと言って、昔の大道芸のように真剣を使った芸などを今の時代に見せることはできないでしょう。セックス催眠の芸を深夜テレビ番組で何度も披露して有名になった吉田かずお先生も「催眠の演芸はもうやり尽くされている」と言っています。

二つ目は催眠演芸は暗示を言わねばならない芸であるので、常にヤラセに見える可能性がつきまとうことです。「さあ、もう目が開かなくなります」と暗示を入れられたとされるステージ上の人物が目が開かなくなっても、客観的に見れば、そういう演技をしているようにしか見えないことでしょう。(ナマのたまねぎや練りワサビを食べるのは、確かに演技では難しいですが、やってできないことではありませんし、何かのトリックがあると疑われる可能性も残ります。)

これらの理由から、演芸催眠術師の芸は飽きられやすいことになります。ブランドである以上、飽きられれば、ただブランド価値が下がるだけで、それを盛り返すのは容易ではありません。一旦ブランド価値が高くなればなるほど、その凋落も大きくなるでしょう。おまけに、たとえばその催眠術師の何かのスキャンダルが発覚したり、犯罪行為を行なったりすれば、簡単にブランドの価値は失われてしまいます。

このように考えると、有名な演芸催眠術師になることも、なろうとすることも、かなりリスクが高いように思えます。現実に演芸催眠術だけで十分に生計を立てている人はあまり存在しません。催眠術師になりたいという方に時々会うことがありますが、具体的に何を目的に催眠術をマスターしたいと考えているかを細かくヒアリングすることにしています。

参考書籍:
本気に催眠術師になりたくなったあなたへ 催眠五年目の感想文 下巻