見直される“ぼんやり状態”の価値

「ぼんやりしている人」と評価されて喜ぶ人は普通いません。「ぼんやりしている」と聞くと、あまりよく考えもせず、注意力散漫な印象があります。しかし、ぼんやりしている状態は、催眠技術でいうと浅い変性意識状態とほぼイコールのものであると考えられます。催眠施術の初段階の変性意識状態は無意識が“露出”し、素のままになっているような状態です。

無意識は先天的/後天的に培われたデータとプログラミング処理の塊のようなものですから、今までによいインプットが豊富に積み重ねられているという前提があれば、高性能の処理で優れた答えを生み出します。

ぼんやりしている際の脳で活性化している部位の集合をデフォルト・モード・ネットワーク(DMN)と呼びます。数年前ぐらいの書籍では、DMNが鎮まらないと鬱や不安が起きて望ましくないと言った説がよく言われていました。しかし、米国ワシントン大学のM・レイクル教授の研究では、DMNを稼働させている脳内では、人間の通常活動時の15倍ものエネルギーが消費されていると発表されています。

脳は元々全身の器官の中でも最もエネルギーを消費することが知られていますが、その中でも抜きんでてエネルギーを消費している状態であることが分かります。つまり、仕事や作業などの実際の活動よりも、脳の「スタンバイ状態」の方が大事だったということと解釈できます。

実際に、「ぼんやりとスタンバイしている状態」の脳内では、これから自分の身に起こることのシミュレーションや、過去の記憶や経験の整理、自分の現在の状況の分析などが行なわれていることも分かっており、過去から未来に至る自分自身の認識そのものが創り上げられていることが分かります。これを「もの忘れ外来」で有名な脳神経外科医の奥村歩は「自分モニタリングシステム」と呼び、人間生活に非常に重要なものと位置付けています。

冒頭に述べた良いインプットに基づく無意識に拠る良い判断も、十分な自分モニタリングシステムがあってこそ働くものでしょう。催眠施術での変性意識状態になることそのものの有用性はもとより、普段の生活の中の“ぼんやりすること”の重要性は今後もっと見直されるべきなのです。