ミルトン・エリクソンの実践例:自殺計画中のうつの女性のケース

オハンロン著の『ミルトン・エリクソン入門』に紹介されている事例です。

自分の容姿に酷いコンプレックスをもっていて、前歯が少々隙っ歯で自分は醜く、結婚も子供を産むこともできないと考えて、うつになり自殺を計画しているという若い女性がエリクソンの診察を自殺前に一度だけと受けに来ました。

エリクソンは彼女にブティックに行って新しい服を買い、美容院に行って新しい髪形にしてもらうように告げました。そして、シャワーを浴びる時に口に水を含み、前歯の隙間から2メートル以上先の目標に向けて水を吹き出して命中させられるようにしなさいと指示したのです。

エリクソンは彼女に対するカウンセリングの中で、彼女の職場の若い男性が彼女に好意を持っていて、彼女が水飲み場に来ると、必ずそこにその男性が現れることに気づいたのでした。そこで、数回のセッションの後、「一番素敵な新しい服を着て、髪も化粧も整えて出勤し、その男性が現れたら口一杯に含んだ水を彼めがけて発射し、そして彼の方に一歩踏み出してから、振り返り死にもの狂いに逃げる(“run like hell”)こと」と指示したのです。

しぶしぶ実践した彼女が走り去ると彼は追っかけてきて彼女を抱きしめてキスをしたようです。翌日水飲み場に来た彼は水鉄砲を持って来ていて、彼女に応戦し、それを機会に彼らは急激に親しくなり、彼女のうつは消え去り、結局彼女はこの男性と結婚したというのです。

著者のオハンロンは「私が心理学の講義で学んでいたものとは、まったく違うアプローチであった!」と述べています。そりゃそうでしょう。これをカウンセリングとかヒプノセラピーの枠の中で論じて良いのか否かさえよく分からない程、破天荒に見えます。

しかし、現実のミルトン・エリクソンはこのような実践を行なっていたのです。吉田かずお先生は「催眠はアイディアとセンスだ」と仰っていますが、まさにここにも、独創的なアイディアとセンスの賜物を見るのです。