行動遺伝学者による「あるべき没頭」の条件

人生に幸福の元となる快をもたらすのは、「快楽」か「充足」しかないことを、2021年に亡くなった米国の心理学者のチクセントミハイなどが解き明かしています。快楽は覚醒剤などに顕著ですが、摂取すればするほど得られる快は薄まり依存が始まります。「充足」は得るのに苦労が必要ですが、一度得られるようになるとずっと続きます。

この「充足」は仕事でも趣味でも何かに没頭するのが最も簡単です。スポーツや芸術などに打ち込んでいる際の没頭した精神状態は「フロー」や「ゾーン」などと呼ばれて有名です。

では、ここでいう「没頭」の対象はスポーツや芸術という条件を満たせばよいのでしょうか。

行動遺伝学者の安藤寿康による『生まれが9割の世界をどう生きるか』に、脳の発達過程や予測脳(情報から予測するための装置としての脳)の話を元に著者が二つの「没頭の対象の基準」を推測しています。

一つ目は「学習性のある素材」であることです。没頭する作業の中に課題解決の要素が含まれていて、そのために工夫したり、新たな学習を重ねたりする必要性が含まれているということのようです。著者はワインを嗜む没頭を例に挙げ、ただワインを飲みたくて仕方がなくて飲んでいるのは、アルコール依存だと注意を促しています。これはチクセントミハイが言う「充足」と「快楽」の違いと考えて良いでしょう。

二つ目は「その領域を作り上げている文化的な知識の蓄積と現実社会の中の社会経済的な基盤があること」となっていて、「産業のさまざまな分野や学問・芸術・スポーツなどの伝統的な文化領域などはそれに相当します」と説明されています。単に「スポーツ」や「芸術」よりもかなり幅広い定義になっています。

何かの対象に集中できるようにするというのは、催眠施術のご依頼でかなり多いテーマの一つです。「フロー」や「ゾーン」は自己催眠状態と言えますが、そこに至る習慣づけをすることや没頭にも通じる「変性意識状態」の体験を作ること。それらは他者催眠である催眠施術で実現できるのです。

☆参考書籍:『生まれが9割の世界をどう生きるか