心身に負荷をかけるメリット (2)不便益

脳は基本的に新しいことに挑戦することを嫌がるようにできています。それは一般的に今まで通りのやり方の方が失敗したりするリスクが低いからです。さらに、楽ができる方法が見つかるとそれに合わせた能力しか使わないようになります。

たとえば、携帯電話の登場前は、主だった友人知人の電話番号を皆覚えているのが当たり前でしたが、今ではそんなことができる人は殆どいません。さらにスマホが登場して、何でも辞書や書籍を開いて調べることが無くなったどころか、いちいちPCのある場所に行き、PCを立ち上げて、検索して調べることさえなくなりました。こうした脳も身体も楽ができることは、簡単に習慣化します。しかし、本に比べてPCモニタで読むことの方が一般に情報が記憶に残りにくく、スマホ利用に至っては思考の質さえ劇的に劣化していると言われています。

このように考えると、文明の発展には、元々人類の生存確率を上げるような切実な目的がありましたが、現在に至って、人類の脳と身体に楽をさせて、結果的にその能力を低める方向に文明が進みがちであることが分かります。

「不便益」という言葉があります。京都大学などを中心に研究されている研究分野で、不便益システム研究所のサイトには、「不・便益ではありません。不便の益 (benefit of inconvenience) です。不便で良かったこと、ありませんか?」とトップページに書かれています。

「就職氷河期に,就活超勝ち組の学生がいました。コツを聞いたところ,新聞を取るのを止めたのだそうです。勝手に配達+口座引落しという便利方式を止めて,毎朝コンビニに行ってキャッシュで新聞を買う。これがコツだとのこと」

「日常なにげないバリアをあえて作り込んで身体能力を衰えさせないという考え方(バリアアリー)と,それを実践しているデイサービス」

と言った事例まで紹介されています。敢えて非効率な日常生活の方法を選ぶことで、自分の脳や心身の衰えを止め、寧ろ逆にそれらを刺激し、成長させること。それには、リスクを避け、省エネ化を常に目指す脳の働きに逆らう必要があります。それには無意識を統制する必要があります。そのようなニーズを満たすことに催眠技術は大きく役立つのです。

☆参考書籍:
不便益のススメ: 新しいデザインを求めて』川上浩司著
不便益という発想~ごめんなさい、もしあなたがちょっとでも 行き詰まりを感じているなら、 不便をとり入れてみてはどうですか?』川上浩司著