映画『ドミノ』に見る大規模催眠用舞台装置

催眠技術の悪用をテーマにした映画作品は多数存在します。邦画でも「催眠 犯罪 映画」などのキーワードで検索すると、役所広司主演でメスメリズムをモチーフにした『CURE』などが登場します。人気のあまりテレビドラマと映画にまたがる『ケイゾク』や『不能犯』のような作品群もあります。

洋画でも作品は多く、例えば『グランド・イリュージョン』シリーズ二作では、ウディ・ハレルソン演じる詐欺師集団の催眠術師がかなり高難易度の催眠の技を披露しています。直接的に犯罪に関与するのではなく犯罪の後始末に催眠技術が用いられる『トランス』などの作品もあります。

10月下旬に公開された映画『ドミノ』は催眠技術をメインテーマに置いた作品として知られています。実は『ドミノ』は異常に優れた催眠能力を持つ女性のコード・ネームを邦題にしたもので、原題は『Hypnotic』で「催眠」そのものズバリです。実際に劇中では「瞬間催眠×集団催眠」で、それも対象者(群)を幻覚の世界に閉じ込めるような、途方もない催眠技が次々と繰り出されますし、対象者を他殺にも自殺にも簡単に追い込んで実行させたりしています。なかなか実現困難なレベルと思っていたら、この技術(/能力)は、催眠技術のように見える(且つ、催眠技術が原点となっている)ことから「ヒプノティック」と呼称されている超能力という扱いでした。

そのような「ヒプノティック」ですが、主人公を「事件を追いかける刑事」という幻想に閉じ込めて、シナリオ通りの行動を幻想の世界で取らせる際には、非常に簡素な映画セットのような場を創り上げて、そこで催眠状態にした主人公に行動させ、組織の人間は(全員組織の制服を着たままの外見ですが)そこで役者のように主人公に接して、脳内世界観を外部でも演じて構築を支援しているのです。

確かに、たとえば、催眠技術を使って和食を食べる幻想を見せるのなら、箸か、箸ではなくても何か棒状のものを持たせた方が幻想は維持しやすくなると思えます。浜辺に来た幻想に入れるのなら、水が溜まった状態に素足で立たせた方が実現しやすいでしょう。

しかし、劇中にあるように舞台設定まで広いスペースに作ってしまってそこで暗示世界を現実的に補強するという事例はそうそう見るものではありません。フィクションではあるもののなかなか面白い事例だと思いました。

戦争映画の中の突撃部隊の訓練などで、訓練所内の実際の建物を舞台にして演習を行なっていたりします。こうした映画セット的な舞台を用意して実験や演習を行なう発想は、プラグマティズムの国である米国発祥なのかもしれませんが、それが大規模な「催眠施術」にさえなる所に発見がありました。