情動が無意識を通じてもたらす肉体変化 (2)中村天風のエピソード

前回、無意識が生み出す情動が肉体に与える大きな影響を催眠技術に関する実験を紹介しつつ説明しました。それを自分の肉体で痛感することで、催眠的な世界観に目覚めた偉人がいます。中村天風です。

中村天風は「思想家」や「実業家」として理解されていることが多いですが、彼の経歴は複雑です。抜刀術や柔道を得意とし、英語にも堪能だった中村天風は、日露戦争当時、諜報員・工作員として満州で暗躍し、「人斬り天風」と恐れられていました。

その後、当時の死病である肺結核を患い、その治療法を求めて海外を旅します。その帰途で偶然出会ったヨーガの聖人カリアッパ師についてインドで学び、肺結核をも完治させて日本初のヨーガ行者として帰国の途につきました。このような中村天風を催眠術師と捉えるべきか、哲学者と捉えるべきか、ヨギと単に称したほうが良いのか難しい所です。『中村天風に学ぶ絶対積極の言葉』を読むと、興味深いエピソードが登場します。

彼がインドの山奥でヨガの師匠カリアッパ師の下に来てまだ日が浅い頃、師がいきなり野良犬の足を小刀で切り、今度はその小刀で彼の腕を切った話です。「どっちが早く治るか、競争だな」と言い残して、師は立ち去ったと言います。衛生環境が良くない場所で、消毒もできず、薬も無い中で、野良犬を切った小刀で切られれば、すぐに破傷風に感染します。破傷風の文字が頭から離れなかったと言います。そして、彼の想像の通り、破傷風を発病します。

二日経って、高熱が続き、腕は化膿し始めました。悪寒と痙攣が襲います、そんな中、師が顔を出し、傷がすっかり治っている犬を見せます。「医学博士でない犬が治って、医学博士のお前が治らないで、かえって悪くなっているのはどういうわけかね」と師は尋ねたと言うのです。

師の結論は単純至極で、「人間は、自分の思った通りになるもの」なので、破傷風になると思い煩えば、破傷風になるということでした。そして、そのようなことを考えもしない犬はそうならなかったと言うことだったのです。

☆参考書籍『中村天風に学ぶ絶対積極の言葉