前世を見せる催眠サービスの実際

退行催眠は、催眠技術の「記憶支配」の一種で、催眠状態の対象者の年齢を段々と遡って行き、過去の記憶を呼び起こす手法です。心療内科の医師などが治療の一環で行なうこともあるようです。しかし、多くの一般の人々の関心は、退行催眠で記憶を胎児からさらに遡ると前世の記憶が蘇ると言った話です。

スピリチュアル系の関心の高まりと共に、ネットで見る限り「前世を見せるサービス」を提供する催眠術師は増えているようです。

不思議なことが二つあります。一つは、記憶支配は対象者を催眠において最も深い「深催眠」の状態にする必要があります。「催眠に掛からない人は二割、逆に深催眠に行けるのも二割」などと、掛からない説明をする催眠術師が多い中で、二割の打率では、サービス提供が成立しないはずです。

もう一つは、サービスを受けた人々から聞く前世の姿です。大抵、ドラマなどに出てくるような人々です。たとえば、「アボリジニの老婆だった」とは聞いたことがありませんし、明治以前に最多職種であろう小作人で「地頭から鞭打たれていた」などもあまり聞きません。もし輪廻が人間に限らないのなら、「蛆虫だった」という答えも数で見ると尤もらしいはずです。

吉田かずお先生は、こうした前世サービスを「無意識の願望のイメージを言わせているだけ」と喝破します。確かに、演芸催眠で鳥や犬のように振舞わせることはできますが、知らない動物にはできませんから、同じ原理と考えられます。

吉田先生は、非常に深い催眠状態の対象者の前世を探ったことが何度かあると言います。その際には、近隣で亡くなった老人が出てきて(対象者とは全く違う声色と口調で)語りだすケースが多かったとのことでした。これは前世ではなく、催眠状態の無防備な無意識に、付近の霊が憑依した結果と、高尾山の高僧に教えられ、霊を弄ばないように厳しく戒められたと言います。

何例か行なった中では近隣の老人以外のケースもあったようで、「前世か憑依かが区別できない」のが吉田先生の結論でした。心霊現象に私はあまり関心が湧きませんが、吉田先生の飽くなき催眠実践の姿勢には感服します。