吉田かずお先生が頻用する吉田式呼吸法は、対象者に自分の呼吸に集中させることで、変性意識へと誘導します。大抵、10の数字を数えながら、呼吸に集中させつつ、「体から力が抜けていく、とても良い気持ちだ」と誘導していきます。先生の「とても良い気持ちだ」はとても特徴的で、横で聞いていると強く耳に残ります。
弛緩系催眠ですから、体の力が抜けてリラックスすることは当然重要ですが、「良い気持ちだ」を何度も強調する理由が私には分からないままでした。
ティモシー・ウィルソンによる『自分を知り、自分を変える』を読むと、適応的無意識(フロイト的無意識と区別した現代の定義に拠る無意識のことです)が膨大な情報を取捨選択し、どのような判断を下すかのルールは二つあると書かれています。
一つは「アクセス可能性の高い情報や判断パターンを優先する」です。「自分への関係度合いの重要度」、「入手してからの新しさ」、「過去のアクセス頻度」の三要因が大きいほど、適応的無意識が記憶されている情報や判断パターンに容易にアクセスできるのです。もう一つは、「自分を“良い気分”にさせる情報や判断を優先する」と言うルールです。つまり、“良い気分でいたいという欲求”を適応的無意識は非常に重視していると言うことです。
人間は、“良い気分”に資するように情報を歪曲して認識し、“良い気分”が維持できる判断結果を優先的に行なうと言う、身も蓋もないルールに支配されているのだと述べられています。
これならば、確かに「とても良い気持ちだ」と誘導された対象者は暗示をより深く受け容れたくなることでしょう。
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