覚えていないことを根拠に判断できる! 無意識の優れた記憶

きちんと確認していませんが、海外では忘れていた事柄を催眠状態で蘇らせた場合も、裁判上の証言とできると聞いたことがあります。吉田かずお先生も、事件に関係した記憶の引き出しを催眠技術で行なったことがあると仰います。意識的に思い出そうとしても思い出せない記憶。それは無意識が処理している膨大な記憶のことです。

『自分を知り、自分を変える』には、フランスの医師エドワール・クラパレードが、健忘症患者に対して行なった有名な実験が紹介されています。一時間前のこともどんどん忘れていく健忘症の女性に対して、彼は手の中に画鋲を隠して握手をしたのです。痛みに驚き、彼女は手を慌てて離しました。次に彼がその女性を訪れたとき、彼女が彼を知っていると言う気配は全くありませんでした。そこで彼がいつものように自己紹介をし、握手しようと手を差し出すと、彼女は握手を拒んだのです。彼女は以前に彼に会ったことを意識的に思い出すことはできなかったのに、危険を知っていたことになります。

同じように、彼女は六年間住んだ施設のレイアウトを意識的には思い出せないのにもかかわらず、その場所に行こうと思えば、迷わず直行できたと言います。

このように、健忘症になっていてさえ、無意識の記憶や無意識の学習結果はきちんと脳内に保存されています。この無意識が保存する膨大な記憶情報を引き出すのは、深催眠のレベルの催眠技術しかありません。意識がアクセスすることができなくなった脳内の膨大な情報へのアクセスができる事実だけでも、催眠技術の広汎な応用方法が想像できるのです。