集団催眠の原理を応用した間接催眠

先日、20代の女性から、彼女の50代のお母さんの肩こりなどの体のこわばりを治す依頼を受けました。原理だけを見ると、特段の後催眠暗示を入れなくても、単に吉田式呼吸法で深くリラックスさせるだけで効果が出そうですし、「肩や背中がどんどん楽になる。すっとする」などと後催眠暗示を入れればなお効果ありと考えられました。ただ、問題は、このお母さんが、催眠どころかリラクゼーションにさえ懐疑的であることです。

対象者に催眠を掛けることを了解させて掛ける催眠を直接催眠、対象者に気取られずかける催眠を間接催眠と区別することがあります。直接催眠においてラポール形成の困難さが話題となることがありますが、本来、相手に告知せず催眠を掛ける間接催眠の方が、催眠の効果を大きく左右するラポール形成がより困難な場面が発生し得ます。今回のケースは、まさにそれで、お母さんの方に間接催眠をどうやって掛けるかが大問題でした。

そこで、依頼主の娘さんの了承と協力を得て、ちょっとした芝居を打つことにしました。娘さんにリラクゼーションの催眠を掛けるのですが、「安心感を増すためには親しい人が手を握っているとよい」と言って、お母さんに娘さんの手を握っていてもらうことにしたのです。そして、「手は強く握ったほうが良いが、あまり強いと血行を圧迫するので、娘さんの手の爪の様子を見ながら、手を握っていてもらうと良い」と伝えました。

和室の畳に横になった娘さんの方を誘導すると、傍らに正座していたお母さんも変性意識に陥り、ぐらぐらと揺れ始め床に倒れこみました。お母さんの方は、娘の手を真剣に見つめていたので、凝視法が働きます。その横で誘導が行なわれ、催眠状態に陥る娘さんの様子を感じていれば、同調して誘導されるのは当然です。

目的を達して覚醒させると、お母さんの方も催眠の効果を自覚して、一応、好感触にはなりました。結果オーライではあったものの、かなり悪用の余地が広い手法なので、怒られたり訴えられたりしない範囲で行なわなくてはと、少々反省しました。