癲癇(てんかん)と催眠施術の忘れられがちな関係

催眠の概念をまだ一切知らない頃、大学で非常勤講師の仕事もしていた私は、講堂を埋める数百人の学生が集団で変性意識状態に引き込まれてしまうという経験を何度もしていました。もちろん、当時は催眠の概念を全く知らないので、「なんだかぼーっとした学生が多いんだな」としか思っていませんでした。

6年間に亘り教えてきましたが、その間に2期、癲癇(てんかん)を抑制するために服薬している女子学生が履修したことがあります。どちらも、子供の頃から自分の体調などに合わせて服薬をしているので、日常生活の中で発作が起きたことはほとんどなく、症状をうまく抑制できているはずでした。ところが、私の講義の期の最初の回で、2人とも、発作を起こして床に倒れ込み、痙攣が激しく、医務室に連れて行くことになりました。

それから10年以上経って、吉田かずお先生と巡り合い、催眠技術を習うことになりますが、吉田先生でさえ、「スピーチを聞かせることで催眠誘導する手法」という話には「あり得るだろうが、今まで見たことも聞いたこともない手法だ」と言っていました。その話題になったときに私が偶然癲癇を発症した学生に言及することがありました。すると、吉田先生は前のめりになって関心を示し、こういったのです。

「その講義はやっぱり催眠だな。昭和の半ばまで沢山いた催眠術師の、施術に当たっての注意事項に、『癲癇の症状のある人は申し出てください』と必ず書かれていたもんだ。施術をすると癲癇の発作が起きるからだな。まあ余程上手く浅めの催眠にすることができるとかでなかったら、断るのが普通だったと思うぞ。メスメルだって、催眠施術をしたら相手がバンバン痙攣を始めるっていう話があるだろ。そういうことで、催眠をかけると癲癇を抑え込んでいる無意識の中の何かのタガが外れてしまうんだろうな」。

「けど、今の時代に、そんなことが起きると誰も言ってませんよね」と言いました。吉田先生の答えは驚きの内容でした。

「まあ、問題になることが無くなったんだろう。一つは薬が良くなって発症しにくくなったということもあるだろうし。けれども一番はやはり催眠術師がみな下手になったんだと思うぞ。俺でもそんな風になったことはない。少なくとも、お前のその『スピーチの手法』は、とんでもない催眠力みたいなものを出せるということなんだろうな」。

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