知り合いの若い男性が催眠技術に関心を持って尋ねて来て、「『やる気を出すこと』や『禁煙』とか、いろいろなことを催眠でできたらいい」と希望していました。やってみたいことがたくさんあるということだったので、他者催眠でその都度こちらで暗示を書き込むのは時間もかかる上に、費用も無用に多く請求することになってしまいそうでした。
そこで中村天風式の自己催眠の簡単な技術を教えて自分でやってみてもらうことにしました。ただ、それに当たって、催眠状態が分からないと雲をつかむようになりそうだったので、催眠状態を体験してもらうことにしました。以前から知っていて、元々自分で関心を持って尋ねてきた人物ですからラポール形成は十分だとは思いましたが、深い催眠状態を実現するために、2回誘導・覚醒を繰り返すことにしました。
さすがラポールがよくできていただけあって、1度目でも(きちんと覚醒のプロセスを経たのにも拘らず)覚醒後に体に力が入らず、歩くのが儘ならないほどの脱力を経験することとなりました。30分ほど間を空けて2度目を試し、今回は「自分でどんどん暗示を入れられる」、「入れた暗示は自分の中にしっかり染み込んで、必ず実現する」と書き込んでみました。立ち上がることもできないほどに深く催眠状態になって、暗示も上手く書き込まれたようでした。
1週間後、彼に会うと、就寝時に「もうたばこは吸わなくてもいい」、「煙草が無くても全然問題ない」、「煙草を吸わないで済んでいる人は世の中にたくさんいる」などと思いつく言葉を数日繰り返しただけで、煙草を吸おうという考えそのものが浮かんでこなくなり、「どちらかというと、世の中に煙草が最初から存在しないような感じになった」とのことでした。その後、「自身が湧く」や「人前で上がらない」などどんどん試して、効果を実感しているという話でした。
日本の学術的な催眠研究の大家、成瀬悟策博士は共著書の『自己催眠』の中で催眠分割練習法という言葉で、他者催眠を組み合わせた、自己催眠誘導や暗示の書き込みのプロセスを呼称しています。私もお悩みの相談を受け催眠施術をする際には、こちらで他者催眠で書き込んだ暗示を、施術後に持ち帰っていただいて自己催眠でも無意識に「上塗り」するよう勧めることが常です。
特に今回の禁煙に関してはかなりポピュラーなテーマで、催眠によるアプローチも、煙草が非常に不味く感じるようにする暗示を書き込むことや、逆に他のことに没頭しやすくして禁煙に意識が向かないようにするケースもあるようですし、以前にこのブログで紹介したように退行催眠の逆で「年齢進行」によって喫煙の害をイメージさせるなど、いろいろな手法があります。
本人が催眠の可能性を信じ、且つ、禁煙をしたいとの思いをそれなりに強く持っている場合においては、今回のように自己催眠をできるようにして、自律的にベストな方法論を選択して貰うのも有効なのだと気づかされました。
☆参考書籍『自己催眠』
☆参考催眠CD音源『禁煙』
☆参考記事『あまり知られていない「年齢進行」による禁煙の催眠技術』
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