ミルトン・エリクソンの実践例:男性の幻覚を見る女性のケース

オハンロン著の『ミルトン・エリクソン入門』の『症状のアンカーリング』という項目に紹介されている事例を抜粋します。

「ヌードの男性が頭上に浮かんでいるという幻覚を持っている女性が、エリクソンの面接室にやってきた。エリクソンは男たちを面接室のクロゼットに置いていきなさい、と彼女を説得した。次にまた彼女の精神病エピソードが出現した時、エリクソンはそれをひとつずつマニラ封筒の中に詰めて、彼の面接室まで持ってくるようにさせた。このことによって、彼女は仕事においても、人間関係においても、適切に振舞うことができるようになった。女性は、時折、精神病エピソードの詰まった封筒を置きに、あるいはそれを見るために、エリクソンの面接室を訪れた。エリクソンは、彼女が他の町に引っ越した後も、ずっとその封筒を保管していた。彼女は、たまに彼の面接室まではるばるやって来ては、彼女の症状が繋ぎ泊められている封筒を点検していったものであった」

この文章では「催眠」や「トランス」という言葉が出て来ていませんが、エリクソンは催眠の技法も使って、このようなことをしているのだと考えられます。

自己催眠の手法で自分に入れるべき暗示を紙に書いて財布に入れて持ち歩くなどの方法が紹介されていることがあります。また、リラックスと集中を同時に行なうことで弛緩系誘導である吉田式呼吸法は、対象者が呼吸、それも特に吐く呼吸を意識するので、「胸やお腹の奥の方から息を長くゆっくり出すと、一緒に嫌なことや痛いこともどんどん出て行って、消えてしまいますよ」などの暗示入れると、簡単に定着することが多いです。

このように「幻覚をマニラ封筒に詰めること」が可能であるように、問題やそれに対応する暗示を物体としてイメージさせることは非常に重要なテクニックだと思います。

☆参考書籍:『ミルトン・エリクソン入門