DVDシリーズ『刑事コロンボ 完全版』(全22巻)の中の第16巻に収められた『5時30分の目撃者』(1975年)には犯人役として催眠療法を行なう精神科医が登場します。
劇中でこの精神科医は2回殺人を犯します。自分の患者である富裕層の夫人と逢瀬を重ねるうちに夫の富豪から詰め寄られることになり、所謂「修羅場」になった際に、夫人にも暴行を働く夫を暖炉の火掻き棒で殴り殺してしまいます。これが第一の殺人ですが、これを暴漢が押し入ってきて夫が殺害されたと夫人に嘘をつかせ警察をやり過ごそうとします。
しかし夫人はコロンボ警部の追及にボロを出しそうになってきて、捜査線上には現場にいなかったことになっている精神科医まで現れてきます。そこで精神科医は、今度は夫人の方も殺害するに至るのです。これが第二の殺人です。
この夫人に対する催眠療法は退行催眠も含むもので、精神科医は夫人が子供の頃から水泳が得意で飛び込みができるのが自慢だったことを知っています。そこで、殺害の日、精神科医は夫人に催眠暗示を入れます。その内容は「今日はずっと部屋から出ない」、「午後10時に電話が鳴ると電話に出て、そこでチャック・ホィーランという名前を聞くと、急に体が熱く感じるようになる」、「そして、熱くてたまらないので、バルコニーに出て、得意の飛び込みで下のプールに飛び込んでしまう」というものでした。高級高層マンションのその部屋は5階にあって、プールはバルコニー真下から少々ずれています。そして、精神科医は自宅でのホームパーティーに質問に来たコロンボも招き入れ、皆のいる部屋でチャック・ホィーランに電話をすることにして、最初は間違い電話をしたふりをして夫人にかけた電話でチャック・ホィーランの名前を受話器に向かって言うのでした。
結果、催眠殺人は見事に実行されますが、夫人は子供時代に戻って泳ぐイメージだったので、バルコニーに出てから全裸になり、きちんと服を畳み、時計やイアリングなどを紛失しないようスカーフに包んで靴の中に入れて飛び降りたのでした。おまけに精神科医は「電話を切る」という過程を入れていなかったので、夫人の電話の受話器は外れたままで、誰かと電話で会話状態だった所から突如全裸で投身したことはあからさまでした。
このような不自然さからコロンボ警部ならずとも投身自殺にも事故による落下にも不自然過ぎるように感じられる状態から、あっさりとコロンボ警部はこれが催眠暗示による殺人であることを見抜くのでした。
☆ドラマ『刑事コロンボ傑作選 5時30分の目撃者/忘れられたスター』(DVD)
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