作業をさせることで、集団に暗示を書き込む! 「作業催眠術」

私がよくやる緊張系の集団催眠の手法は、ヒトラーの演説のように、スピーチの形で聞き手の無意識に暗示を書き込む「催眠スピーチ術」です。「催眠スピーチ術」は数百人規模の聞き手でもほぼ例外なく変性意識状態に引き込めるのが、長所です。

しかし、デメリットもあって、1回に最低でも1時間半はかかってしまいます。その他にも、事前に練り込んだスピーチ内容も準備しなくてはなりませんし、話のスピードをコントロールするテクニックも必要です。

もっと誰もが実践しやすく、確実に集団に暗示を書き込む方法はないかと考えていて、テレビ番組で偶然見たのが、児童の成績を伸ばすことで有名な陰山メソッドの一部である「100マス計算」です。100マスの計算を行なうクラスの児童達の脇で、担当教諭は黙ってみているのではなく、「さあ、昨日よりももっと速くなる」、「数字を見てると、ドンドン計算できる」などと言っていたのです。

これが本来の陰山メソッドの方法論かどうかを、私は知りません。けれども、状況は明らかに作業に集中させて変性意識状態にする「集中法」が用いられていて、教諭の言葉は暗示そのものでした。

そこで、オモテ稼業の中小企業診断士の或る店舗スタッフ教育の場面で、お客様満足の向上のために、自分達が具体的にやれることをグループで5ヶ条にまとめてもらいました。5ヶ条全部に接客の場面をイメージして説明できるようにしてもらっておきます。

そして、全員に5分ほどの時間を与え、5ヶ条を雑紙に30回書いてもらうと言った作業をしてもらうのです。その横で私が「これでどんどんお客様が喜ぶようになりますよ」、「みんなで決めたんだから、必ずみんなでやれるし」などと呟きます。

結果は店長が見違えるほどの接客行動の変化でした。作業させて変性意識状態を作り、そこに作業内容と組み合わさる暗示を肉声で入れる。これなら催眠の知識がない人物でも、比較的短時間で集団催眠が実践できます。

名称がないと不便なので、この緊張系催眠の手法を、取り敢えず「作業催眠術」と呼ぶことにしました。