聞くと催眠がかかるCDや見ると催眠がかかる動画など、音声媒体や動画媒体で催眠をかけるツールがあります。「かかりがイマイチ」との評価も聞くことがありますが、それは、利用者側が「ホントに効くのかな」などと疑いを持っていれば、ラポールがあまり形成されていないことになるので、或る意味、当然です。また、相手の状況に合わせて、誘導方法やその進行を調整する訳ではないので、誘導それ自体の効果が薄いことも当然あるものと思います。
吉田かずお先生は電話で催眠をかけることがあります。言わば、物理的距離を超えた遠隔催眠です。これであれば、電話口から相手の状況を確認しつつ催眠をかけられますから、少なくともCDやDVDなどの催眠ツールよりは効果が上がるものと思われます。しかし、吉田先生は「効果をきちんと出すために、既に一回催眠をかけたことがある相手しか電話でやらないことにしている」と仰っていて、いきなり初めての人に電話で催眠をかけることの“不安定さ”が意識されていることが分かります。
わざわざ遠隔で掛けるぐらいですから、特定の目的に従った暗示を書き込む催眠施術であるケースが多いものと思います。何かの暗示を書き込むぐらいに深く、オンライン越しに誘導すると、何かが起きた時に対処ができません。たとえば、深く入り過ぎてしまって、画面越しの相手が全く覚醒しなくなったらどうするかとか、相手がイスから転げ落ち、ストーブか何かに頭を突っ込んでしまったらどうするのか…などと言ったリスクは間違いなくあります。
他の問題も考えられます。私の『ポスト構造主義っぽく読み解いてみた!… 下巻』では、「自動車購入の価格交渉をする模擬実験では、硬い椅子に座った被験者はディーラー相手に強硬な交渉をし、ソファに座った被験者は価格の引き上げに柔軟に応じた。やわらかな感覚は、気持ちまでやわらかにする」という『文藝春秋SPECIAL 2017夏』で読んだ実験を紹介しています。
人間は意識されない色々な五感の刺激情報によって行動を変化させていることが分かります。吉田先生の電話催眠の限界は、対象者を誘導する単なる誘導法それ自体以外にも数々の働き掛けを催眠術師が必要としていて、それが電話の音声情報だけでは限られてしまうということと、解釈することができます。
多分、電話がスカイプなどに変わったとしても、その限界を超え遠隔催眠の実現性を大きく押し広げることは難しいのではないかと私は考えています。遠隔催眠の技術には相応の難しさが伴っていると考えられるのです。
☆関連書籍:『ポスト構造主義っぽく読み解いてみた!~「意識が消えてしまった世界」で「適応的無意識」を操る最強の技術「催眠」~ 下巻』
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