ジョーカーを生まないための催眠技術

2019年度のアカデミー賞主演男優賞は、年を跨いだ今年2月に『ジョーカー』のホアキン・フェニックスに送られました。今年に入っても続いたロングラン上映の直後にDVD発売で話題が盛り上がりましたが、さらに、この作品の評価を上げたと思います。

この映画は米国の、もしくは先進国全般の格差社会の惨さを描き、米国では暴動の誘発が危惧されるので上映が取りやめになった地域もあると聞きます。この映画が描く格差は一般に「貧富の格差」であると考えられていますが、その根源をたどると、「教育の格差」や「知識の格差」であるように思えてなりません。

催眠技術研究屋として、この映画を見て真っ先に感じたのは…

「緊張すると笑いだすのが、トラウマ系の原因と分かった時点で、アメリカにはあちこちで開業しているヒプノセラピーに行ったら、速攻、治っちゃうんじゃないのかな」
でした。技術的には私でもできるぐらいのことです。さらに…

「母親の方の虐待癖も基本的に無意識の構造によるものなので、アメリカのあちこちで開業しているヒプノセラピーで緩和ぐらいはできそうな…。エリクソンの本にも類似した構造の事例が出ていたような気がする」
とも思いました。

産婦人科で陣痛緩和・解消にまで催眠技術を(州によりますが)使う国なのですから、この手のことは、やれば法的にもすぐできる環境の筈です。

貧困と精神の悪状態には相応に相関があることはよく知られています。国民全員の健康保険制度でさえ、批判や議論の的となるほどの自己責任論が強い米国で、貧困に喘ぐのも精神を病むのも自己責任の結果です。現実に劇中でも社会福祉制度は、どう見ても主人公を良い方向に導いていません。だとしたら、個人を救い得たのは、社会にヒプノセラピーと言う「術(すべ)」が存在し、それが自分に対して有効であるという知識そのものでしょう。

『ジョーカー』は催眠技術の大きな社会貢献方法の一つに気づかせてくれる映画でもあるのです。