普通は失われない催眠中の記憶

私が貸したDVD『魔睡』を観た吉田かずお先生の感想の最初の一言は、「この作品もそうだが、『催眠をかけられている最中の記憶はなくなってしまう』という誤解がどんどん広がっているな。演芸催眠をやっている催眠術師でもそう思っている人間が増えている」でした。確かに劇中では、催眠をかけられているのかどうかの事実関係が全く分からないままに、物語は終わってしまいます。

忘却催眠という言葉がありますが、主に二つの意味に用いられているようです。一つは何かの記憶を思い出せないようにしてしまう催眠手法です。トラウマなどの望ましくない記憶への対処など、ヒプノセラピーで使われることも多いようです。もう一つは、催眠施術の最中に入れた暗示を覚醒後に思い出せないようにしてしまう催眠手法です。

後者の方の忘却催眠をヒプノセラピーの効果向上のために吉田先生はよく使いますが、逆に言えば、このようなことを特別にしないかぎり、催眠状態の記憶を対象者は持っているということが分かります。

たとえば、スマホのゲームなどもそうですが、単純な作業を反復するようなゲームに集中していると、何も思考せずに過ぎた時間の感覚が曖昧になることがあります。この状況は浅い催眠状態と同じです。この間のゲームの展開を詳細に思い出すことは困難であることがほとんどです。しかし、全く思い出せないということもないはずです。同様に催眠状態に記憶は、曖昧になりやすいですし、時系列がきちんと再生できなくなることも多いようですが、完全に失われたりするものではありません。

「催眠をかけられると記憶さえないままに好き勝手なことをされる」という思い込みが「催眠に対する誤解や偏見を助長している」と吉田先生は危惧しています。対象者に対する施術についての十分な説明やその結果のラポール形成が、以前以上に重要になっているように思えます。