作業をしながら行なえる特殊な瞑想方法

精神科医の名越康文は、仏教に強い関心を持ち、仏教を活かして人生をより良いものにするというテーマで『どうせ死ぬのになぜ生きるのか』という本を書いています。その中には、「仏教は、簡単に言うと、よく生きるための実践マニュアルとして作られている」と書かれています。その主たる手法が、心を乱さないようにして生きることです。

その具体的な方法の一つは、「行(ぎょう)」と呼ばれるものです。滝に打たれる修行を「滝行」と言いますが、まさにその「行」です。よく見ると、「修行」という言葉自体が、「行」を「修める(おさめる)」ことです。「行」は、大雑把に言ってしまうと「こころを落ち着けてクリアにするために、日々繰り返しおこなう小さなルーティーン」というような意味で書かれています。

その小さなルーティーンは日常生活に取り込んで反復するのが良いとされていて、テーブルを丁寧に拭くとかいう作業も「行」にできると書かれています。けれどもその作業が「行」になるようにする注意点があります。毎日一心に作業に集中して行なうことです。テーブル拭きの場合は、心の中で「拭く、拭く…」と唱えながら行なうと説明されています。

こんな風に作業に集中して毎日、それも簡単なプロセスを繰り返すだけのことですが、「たったこれだけのことでも毎朝、一ヶ月も続けると、その人の心は落ち着き、表情が明るくなってきます」 と名越康文は書いています。

作業をする状態ですが、集中して特定の作業に没頭すれば変性意識状態が簡単に発生します。つまり、この「行」は禅の瞑想と同様の効果を持っている自己催眠の一種であることが分かるのです。