誤解されていることが多い「自己実現」の本当の姿

SNS上に「好きなことや好きな人に囲まれている充実した人生」とか「自分らしく生きている人生」などを投稿して「自己実現」をしているように語り、友達やフォロワーなどからその状態を承認してもらって、いわゆる“ブランディング”を図っている人を目にすることがあります。

欲求五段階説の頂点に「自己実現欲求」を置いたマズローに拠れば、多くの第三者に認めてもらうことが前提の行為を重ねているなら、それは、第三段階の「社会的欲求」や第四段階の「自尊的欲求」の状態だからです。第五段階の「自己実現欲求」の段階になると、仮にその「自分らしい生き方」を世の中の誰も評価してくれない状態でも、平然として淡々と生きて行けるはずなのです。

根本橘夫博士の『「満たされない心」の心理学』には自己実現者の特徴が以下のようにまとめられています。

(1)有効な知覚…現実を適切に認知し、判断している
(2)受容…自己、他者、自然をあるがままに受け容れている
(3)自発性…思考や行動が自発的であるので、単純であり、また、自然である
(4)課題中心的…不安定な人では関心が自己に向けられ、悩みや心配として体験される。これに対し自己実現した人は、関心がもっぱら課題に対して向けられる。このために有効な行動がとれる
(5)超越的…外部の出来事に右往左往することなく、いつでも自分を保っていられる
(6)自律的…欠乏動機よりも成長動機によって動かされるので、不必要な社会的価値観などに縛られることがない
(7)認識の新鮮さ…繰り返し体験したことでも、喜びや驚きが色あせることがない
(8)少数の人と深い結びつき…付き合いの相手も自己実現した人であることが多いので、交友関係は意外に狭い。しかし、結びつきは深い
(9)民主的性格…自己実現者は権威主義的ではない

交友関係は、「深い付き合いの人物が少数」なので、「自己実現者」が仮にSNSをやっていたとしても、友達やフォロワーは全然いなさそうです。元々「超越的」なので、「一般的な人たちからは、冷たさ、愛情の欠落、友情のなさ、敵意などに解釈される場合もある」らしく、深い結びつきのある人以外は、寄り付きもしないかもしれません。

このような自己実現者の心境は、実は、仏教が説く「心を鎮めた状態」に近いものです。つまり、禅や瞑想を重ねてようやく至る心境と解釈できます。禅や瞑想が変性意識状態である以上、催眠技術でも自己実現の心境への近道を歩むことができるのです。