「好きを仕事にする」の疑わしさ

最近、「好きなことを仕事にする」という考え方を表明している発言や書籍が増えています。特に自己啓発系の書籍などで、「好きなこと」は続けられるし、ハード・ワークになっても苦にならないから理想的だという言説が多く見られます。

しかし、自分の好きであろうとなかろうと、その仕事の「受け止め手」がその仕事の成果を高く評価しなくては、仕事は続きません。以前、『バクマン。』という売れるマンガを描こうと若手マンガ家のコンビが試行錯誤・悪戦苦闘を重ねるマンガがありました。主人公達は好きな仕事をしてもなかなか受け容れられませんし、その周辺には挫折して去っていた人々がたくさん存在します。それは会社で働く人であっても、原理的には同じことです。

「好きなことを仕事に」説を唱えている人物の一人であるホリエモンこと堀江貴文は中学校時代に新聞配達をしていましたが、本人も「やりたくてやっていた訳ではない」と言っているようです。では、なぜ成功者と目される人々は「好きなことを仕事に」と説くのでしょうか。

それは多くの場合、彼らが自身の「作話」に気づいていないからだと考えられます。映画『ビリギャル』の原作者で学習塾講師の坪田信貴は、やる気の構造を以下のように書いています。

「一般に、「やる気になる⇒やる⇒できるようになる」だと思われているが、全くの誤り。「やってみる⇒できる⇒やるきになる」が正解。まずは「できる」状態まで持っていくことが大事」。

人間を支配している無意識が起こした行動に対して、感情は後から発生して意識されることが知られています。「おかしいから笑う」のではなく、「笑うからおかしい」のです。その人になぜ笑ったかを尋ねると、尤もらしい理由を挙げるでしょう。しかし、多く場合、それは「作話」です。無意識が勝手に行なったことに対して、敢えて言うと(悪意のない)嘘をついて適当に辻褄合わせをしているだけなのです。

所謂「成功者」たちは、好きなことを仕事にしたから成功したのではなく、成功した仕事を後で好きになったケースが多いものと想像できます。本当の仕事の成功のコツは、まずはやる。そしてできるようになる。それを反復して楽しくなり、好きになる。このプロセスを踏めばよいだけです。好きになるのは最後の最後です。

そして催眠技術ならどんな仕事も後付けでいくらでも好きにできるのです。