「体系的に催眠術を学んで教育現場に活かしてみたい」(40代養護学校教員)

石川さんに知り合ったのは、私が参加しているコミュニケーション系の勉強会の特別講師として石川さんがいらしたときでした。若い頃から対人関係に苦手意識があり、この勉強会にも参加していました。普段の人間関係においてもコミュニケーションもそうですが、生徒たちの指導のためのコミュニケーションも改善できるような何かを学べればと、思っていましたが、決定的な学びのようなものは得られていないまま、ずるずると出席を重ねていました。

石川さんは毎月一度ずつその勉強会に招かれていて、そのつど、催眠の原理と、その回のテーマに沿った催眠術の応用方法について説明していました。私は二度参加しましたが、お話が分かりやすく、とても納得が行くもので、生徒たちへの指導にも何か活かせそうだとの考えが、だんだん自分の中で明確になっていきました。

意を決して石川さんにメールで連絡し、個別に会うことにして、自分の仕事やその場への催眠術の応用の可能性について、意見を尋ねてみました。石川さんはご自身も大学の非常勤講師として数百人の学生に大講堂で授業を行なっていた際に、自分はそれと気づいていないうちに、学生たちを催眠状態に引き込んでしまっていて、その結果、講義の満足度も理解度も高まったという経験について話してくれました。そして、成瀬悟策先生の教育分野における催眠術の活用について書かれた書籍も紹介してくれました。

その時点で私は石川さんから催眠術を学ぼうと決めていましたが、石川さんはあらかじめ私の仕事にどのような応用ができそうかいくつかの書籍を読んで考えてみるように薦めてくれました。明確な目的意識があった方が、催眠技術のマスターが進みやすいとの配慮のようでした。

催眠術をマスターできるように教えてもらうことを決め、石川さんに連絡すると、初回は無料で、吉田かずお先生による吉田式催眠観の特別性や、各種の書籍で催眠の考え方を広く学びながら身につける、体系的な学習方法を提示してくれました。全10回の石川さんとのレッスンを通して、20冊以上の関係書籍を読み、催眠施術に最も大事なラポールの形成方法から始まり、暗示文作成や暗示の告げ方まで詳細に教えてくれる内容でした。

おのおののレッスンで次回に向けての課題図書が指定されるのと同時に、実践課題も出ました。最初は吉田式呼吸法の誘導スクリプトを相手に受け容れられやすい口調で暗唱できるようにすることなどでしたが、その後、実際に複数の人を誘導してみてくるなどの課題が出ました。職場には内緒で、休みの日にキャバクラに通い、現役大学生ホステスさんをアフターでカラオケ店などに誘って催眠施術の練習台になってもらいました。石川さんの指導通りに、ゆっくりと丁寧に呼吸法で誘導すると、面白いぐらいに、全員が簡単に催眠状態になりました。

石川さんは10回のレッスンの後半で、教育現場にも応用がしやすいような誘導法を集中的に教えてくれました。特に石川さんが「緊張系催眠」と呼ぶ誘導法の数々は、多くの催眠系の書籍にも紹介されておらず、非常に興味深いもので、一般の誘導法と目的に応じて使い分けることが大事と説明されました。

レッスンも終わりに差し掛かった頃から、私は学校の現場で「催眠」という言葉を使わず、日常の指導の場面に「催眠」のエッセンスを採り入れることに取り組み始めました。たとえば、グラウンドでの時間で生徒たちを集合させるのも、その時にやっていることに集中していたり、指示の聞き取りや理解が困難だったりするなどで、通常の生徒に比べて時間がかかることが多かったのですが、生徒たちの無意識に働きかけるように指示を語り、カウントを組み合わせてみることで、生徒たちはすんなり集合するようになりました。何かに集中している時こそ、暗示が高い効果を生むことを実感できた瞬間です。

また、修学旅行に行った際も、就寝・起床のリズムが身につかず、集団の活動についていきにくい生徒が例年多くいるのが普通でしたが、初日の就寝時に生徒たちに暗示を入れることで、旅行中、そのような事柄は全く起きず、他の先生から不思議がられました。石川さんにこのようなことを報告すると、明治期から昭和初期にかけて、学校教育の場で催眠術は多用されていたことを、村上辰午郎の取り組みなどの事例と共に説明してくれました。

石川さんが催眠術に関するさまざまな知識を広く身につけさせてくれて、実践に関しても細かく指導してくれたおかげで、日常の教育現場での色々な場面で、催眠術の活用の可能性に気づけるようになりました。今後も催眠の技術を教育の現場に細かく取り込んでいきたいと思っています。