ジェネレーション・ギャップと催眠技術

80歳を超える吉田かずお先生が催眠セッションを終えた際に、何やら不機嫌そうだったので、話を聞いてみると、30代前半の男性対象者とのラポール形成を図るための雑談で、職業について聞いてみたが何を言っているのか全く分からなかったという話でした。私がその方と後日連絡を取る機会があったので、職業を聞いてみると、システム・エンジニアでした。その方の側でも、吉田先生が何度も職業について尋ねるので、本人なりに分かりやすく説明したつもりであったようです。

昔にはなかった職業のみならず、昔にはなかったスマホや昔にはなかったライフスタイル、そして昔にはなかった社会的価値観など、色々な変化が催眠施術を行なう環境要因に起きています。たとえば、知り合いの何人かから「既読スルー」をされてふさぎ込んでしまう心情は、スマホで頻繁にSNSをチェックする対象者の日常の状況が理解できなければ、催眠施術で癒すことはできないでしょう。

LGBTQなどに関わる悩みもメディアでよく取り上げられ、世界的な社会認知の潮流が生まれているようですが、その悩みの解消や緩和は催眠技術で原理的には簡単に実現できるものの、悩みの状況を理解できることが、当然ながら前提です。

ライフスタイルが多様化している中、対象者の悩みや依頼内容も以前にはなかったようなものが増えています。その多くは対象者と催眠施術者とのジェネレーション・ギャップの問題に収斂します。

「自分の悩みを理解してくれていない」と対象者が思えば、ラポールは形成されないでしょうから、催眠施術は絶望的です。仮にそれが上手くいっても、対象者の価値観や対象者が使う言葉のレベルが把握できないと、対象者が受け容れやすい暗示文の作成は非常に困難になるでしょう。その結果、効果的な暗示文を作ることもそれを無意識に定着させることも難しくなります。

最近私は『若者たちのニューノーマル Z世代、コロナ禍を生きる』という書籍を読みました。自分と立場の違う人々を理解するための書籍は時々意識的に選んで読むようにしています。それは、催眠施術をする者として、対象者を含む社会の変化についていくためのささやかな努力なのです。

☆関連書籍:
本気に催眠術師になりたくなったあなたへ 催眠五年目の感想文 下巻
若者たちのニューノーマル Z世代、コロナ禍を生きる