ニューロ・マーケティングとシーン・マーケティングの催眠的検証

最近書店で書籍タイトルにちらほら見られる「ニューロ・マーケティング」とは、脳科学の知識をマーケティングに応用して、人の無意識の行動原理を脳の活動から明らかする方法論とされています。

「ニューロ・マーケティング」では、目では視線や瞳孔の動きなど、脳では脳波や活動領域、そして姿勢については重心移動などを測定することで、無意識の働きを定量化して、消費者の本当の判断を理解できると言われています。

しかし、企業活動の中で、お客様がアンケートやインタビューなどで本音を語らないというのはかなり昔から常識です。

インタビューでは表面上の言葉に振り回されないように、デプス・インタビューが発達したのも、アンケートなどの個々のデータではなく、全体の偏りや傾向を暴き出すクラスター分析やテキスト・マイニングが流行したのも、お客様の無意識のニーズを意識すべきとインサイト・マーケティングが叫ばれたのも、結局、お客様の言っていることがアテにならないという単純な事実に拠ります。

おまけにお客様は合理的にも行動しないので、行動経済学が発達しました。その結果、「初頭効果」や「ウィンザー効果」など数々の効果が今までに“発見”されましたが、ほぼどれも経験的には既知のことばかりでした。

さらに、これらのマーケティング関係の“新手法”は帰納的に正しいでしょうが、だからと言って、お客様に何をどう提案したらより売れやすくなるかという未来の選択肢に演繹するのにはあまり向いていません。

嘗て、シーン・マーケティングが一世を風靡したことがあります。「春、湘南の風に吹かれて海岸を歩くなら、このパーカー」のようなコピーがそれです。大雑把に言ってしまうと、お客様の生活上のシーンを想定して、そこで売り手の商品・サービスを必要と思わせるという、ニューロ・マーケティングなどの一群のマーケティング手法とは全く逆のアプローチです。

無意識の判断が何であれ、その無意識の判断回路を書き換えることができれば、どんな商品・サービスでも必要と感じさせることができます。無意識の働きを知る研究がマーケティング的な成果に結びつきにくいのは、結局それらが複雑な無意識の働きの“後追い”だからです。催眠技術ならシーン・マーケティング以上に、お客様に売り手に都合の良いニーズを植え付けることができるのです。

☆関連書籍:『アップルのリンゴはなぜかじりかけなのか? 心をつかむニューロマーケティング