短期的視野と貧困はどちらが原因でどちらが結果か

格差是正や貧困解消の議論、そして最近だとベーシック・インカムの議論には、反対の立場として自己責任論が登場することが多いようです。

統計的に見ても、貧しい人の方が、犯罪に手を染めやすく、肥満になりやすく、アルコールやドラッグの依存症になりやすいと言われています。端的に言ってしまえば、「ダメ人間が貧困になるのは自業自得であろう」というのが自己責任論的な立場の考え方で、そのような人に、そうでない人々の財産を分け与える必要の有無が問われているということです。

プリンストン大学の心理学者のエルダー・シャファーとハーバード大学の経済学者のセンディール・ムライナサンは、この問題を研究し、「貧困はIQを13~14ポイント押し下げる」ことを発見したとされています。

「何が足りないかは対して重要ではない。足りないのが時間であれ、金銭であれ、友情であれ、食べ物であれ、――そのすべてが、『欠乏の心理』をもたらす。そして、その心理にはメリットもある。欠乏感を抱いている人間は、短期的な問題を処理するのがうまいのだ。(中略)そうだとしても、『欠乏の心理』がもたらす悪影響は、そのメリットをしのぐ。欠乏はあなたの気持ちを、差し迫った不足に集中させる。五分後に始まる打ち合わせとか、翌日に迫った支払とか。そうなると、長期的な視野は完全に失われる。『欠乏は人間を消耗させる』とシャファーは言う。『他にも等しく重要なことがあるのに、そちらに気持ちを向けられなくなるのだ』」

これは『隷属なき道 AIとの競争に勝つベーシックインカムと一日三時間労働』の中の貧困が典型的な「欠乏の心理」を招き、結果的に短期的で望ましくない答えを人々が出しやすくなる構造を説明した部分です。

この「欠乏の心理」が発生しないように貧困を撲滅するのは福祉施策として重要ですが、財産の再分配を行なう前に、この「欠乏の心理」の緩和や解消を催眠技術ならできそうに思えてなりません。

☆参考書籍:『隷属なき道 AIとの競争に勝つベーシックインカムと一日三時間労働