鬱に最も効く薬: 運動

世界的ベストセラーとなった『スマホ脳』の著者アンデシュ・ハンセンが、抗鬱の最高の方法として運動を挙げています。彼がこの事実に気づいたのは、イギリスで15万人の被験者に対して行なわれた簡単な調査でした。

6分間全力でエアロバイクを漕いでから、力の限り握力測定器を握る。その後、鬱や不安の症状に関する質問に答える。単純な調査ですが、7年後にまた調査をしたところ、精神状態の変化と7年前のエアロバイクのテスト結果に関連性があることが判明したと言います。

ストレスに対する人間の主要な体内システムは、HPA系です。単純に言うと、脳の視床下部(H=hypothalamus)が下垂体(P=pituitary gland)にシグナルを送り、そこからさらに副腎(A=adrenal glands)にシグナルが伝達され、結果的に副腎がコルチゾールというホルモンを放出するのです。HPA系の働きは複雑で、ストレスがかかるとHPAの順に機能してコルチゾールが分泌されますが、そのコルチゾールが今度は視床下部や下垂体の機能を抑制するようにフィードバックするのです。

激しいストレスにさらされ続けると、大量のコルチゾールが分泌され続け、フィードバックが効かないうちに、脳の海馬を委縮させるなどの悪影響が出ます。ハンセンは長期的な運動習慣が海馬を増大させ、前頭葉の血管も増やし、結果的にHPA系を安定平準化させると説明しています。

ハンセンはさらに、運動はドーパミン、セロトニン、ノルアドレナリンのレベルを上げ、BDNF(「脳由来神経栄養因子」のこと。ハンセンは脳の「肥料」と呼んでいます。)のレベルも上げる。長期的には体内の炎症を抑える効果もあり、どれもが抑鬱の効果に結びつくと述べています。

催眠施術に対する相談で一番イメージしやすく、且つ大きなテーマとなっているのが鬱対策です。鬱で悩む人々に対して書き込む暗示を考える時、その沈んだ心の状態に着目して、「明るくなること」や「気にしないこと」など、そういった精神状態に直接的に対抗する暗示を考えやすくなります。しかし、セロトニントランスポーターの仕組みなどから、幸福感を植え付けにくいのが日本人のはずですから、中長期的な抗鬱対策として、運動習慣を暗示で作るというアプローチも意味があるのかもしれません。

☆参考書籍:『スマホ脳