自己催眠で可能になる修験道の“火渡り”

テレビで見る山伏の修行の火渡りは、正確には、修験道の「火生三昧耶法」と呼ばれる修行法です。心を静めることで自身から大智の火焔を生じさせ、煩悩を焼き尽くすことが目的と言います。火渡りは自身の火によって火を制するという象徴でもあります。

科学的分析によれば、適切な手続きによる一定条件下では、人間の足と高熱を発生する炭の熱伝導率や比熱などの組み合わせによって、火傷を負うことはないとされています。しかし、たとえば、足裏に汗などの水分があると、炭が貼りつき、火傷してしまうなど、一定条件が厳密に守られる必要があります。また、火傷を負わないまでも、熱さに耐えることは当然必要となります。

このように見ると、火渡りを実現するのは、火傷もせず渡れるという自信や、熱さに動じないで一定ペースで歩ける集中力だと分かります。つまり、火渡りは集中力向上や熱さに鈍感になるなどの感覚支配を行なうための自己催眠訓練なのです。

大気拳を創始者から伝承された弟子である吉田かずお先生は、手で真剣の刀身を握って引き抜くという技を何度もしたことがあると言います。刀身を握った手は布でぐるぐるに縛られ、掌が刃に微妙に触れない形で固定されています。そのまま、刀を引き抜いても手は切れないと先生は言います。しかし、不安や動揺で手の握り方が変われば、落下している落ち葉さえ切れる真剣であっさり掌は切断されてしまいます。この技が可能になる理由も、火渡り同様、自己催眠なのだと吉田先生は言います。

明治初期に日本に紹介された催眠は大ブームとなりました。しかし、「催眠」の名称はなくても、それ以前から日本には宗教や武道やなどの形で催眠技術が広く浸透していたことが分かるのです。

参考書籍:
体を使って心をおさめる 修験道入門