催眠技術を扱った多くの映画やTVドラマで、催眠技術は犯罪に用いられています。そんな中で、日本のTVドラマで催眠技術が悪を懲らしめる “ヒロイン作り”に活かされているという異色のドラマがあります。2020年に放送された『シロでもクロでもない世界で、パンダは笑う。』です。
主人公は「ミス・パンダ」と呼ばれる大胆不敵なヒロインとその「飼育員さん」です。ミス・パンダの傍若無人な行動の裏には、ミス・パンダが飼育員さんと呼ぶ精神科医を目指す医大生がおり、法務大臣から法が及んでいない悪事を暴いて断罪するように指示されているのです。
飼育員さんは医大でPTSDの治療を受ける患者から「『助けて。私をここから出して』。との心の叫びを聞いた気がした」と関心を抱き、彼女を催眠状態にしてその無意識を探ったようです。(ドラマの中ではその場面は具体的に描かれていません。)自己肯定感がほぼゼロに近いような引っ込み思案の彼女の無意識から現れたのは覚醒状態とは全く真逆の人格で飼育員さんはそれにミス・パンダと名づけます。
実はこの女性は一卵性双生児の女の子リコとレンのうちの一人でした。母から受け容れられたできの良いレンと母から虐待を受け続けたリコでしたが、母がリコを殺害しようと起こした放火事件でレンが死んでリコが生き残ってしまいます。生き残ったリコは母から愛されるためにレンになることを望み、それを飼育員さんの指導者である精神科医が催眠技術で叶え、リコの人格を封印してレンの人格のままに生きることを実現したのでした。
抑圧されたままのリコの人格は飼育員さんの催眠施術で最初リコの記憶を伴わず、ミス・パンダとして現れます。事件が起こるたびに飼育員さんは彼女を催眠状態にして高い身体能力を持つミス・パンダを引出し協力者とし、事件が解決すると元に戻すという作業を経ます。催眠施術を繰り返すうちに、無意識はどんどん刺激され、リコの記憶や人格がミス・パンダの間に浮かび上がってきます。精神科医によるリコの人格の封印の施術治療を受けていても、頻繁に飼育員さんに裏で人格入替を行なわれるうちに、レンとリコという記憶も人格も全く異にする二人格がせめぎ合う状況が生まれるのです。
人格入替はかなり深い催眠状態で実現できるとされていて、吉田かずお先生の「美女催眠」などもその原理を応用した施術です。しかし、そうした人格入替も実現するような深催眠の施術で暗示の書込みを反復すると、無意識が活性化し色々な暗示も受容れやすくなりますし、不安定になることが予測されます。ミス・パンダが結局リコになって行ったのは、そうした観点から見て非常に的確な催眠技術の物語への取り込みといえます。
☆ドラマ『シロでもクロでもない世界で、パンダは笑う。』(DVD)
☆参考記事:『案ずるより産むが易し! 突然、美人になる方法』
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