『シロでもクロでもない世界で、パンダは笑う。』に見る催眠技術 (2)催眠誘導・覚醒編

 催眠技術を扱った多くの映画やTVドラマで、催眠技術は犯罪に用いられています。そんな中で、日本のTVドラマで催眠技術が悪を懲らしめる “ヒロイン作り”に活かされているという異色のドラマがあります。2020年に放送された『シロでもクロでもない世界で、パンダは笑う。』です。

 主人公は「ミス・パンダ」と呼ばれる大胆不敵なヒロインとその「飼育員さん」です。飼育員さんは精神科医を目指す非常に優秀なイケメン医大生です。普段は極端な引っ込み思案で悲観主義のおどおどした女性に深催眠施術をして、ミス・パンダの人格を呼出して事件に向かわせます。事件が解決するとまた施術をしての元の女性に戻します。

 普段の女性の人格の方は、自分がミス・パンダにされていることを全く認識していません。誘導は多くの場合、彼女をいつものカフェに呼び出して、パンケーキにシロップを大量に垂らして見せることで行なわれます。劇中では描かれていませんが、(昏倒してしまった状態ではカフェからアジトに運ぶのが大変ですから)催眠状態になった彼女とアジトに向かうのだと思われます。アジトのソファでさらに催眠を深くしつつ、事件の概要を理解させた上で、ミス・パンダの人格を解放させているようです。(このプロセスも劇中では彼女の無意識の内面世界が描かれるだけなので、具体的にどのような手法かは分かりません。)

 ミス・パンダが大暴れして事件を解決すると、ミス・パンダを飼育員さんは抱きしめて、「お疲れ様」と言い、彼女の頭をポンポンと優しく叩くと、彼女は眼を閉じて深催眠状態に落ちます。その彼女をおんぶして飼育員さんは彼女の家に運び、ベッドに寝かせて去るのでした。おんぶして運んでいる際も彼女が目を覚ますことはないようです。翌朝目を覚ました彼女は元の人格に戻っており、憧れのイケメン医大生とのパンケーキ・デートがあまりに嬉しく舞い上がって記憶が無くなってしまっている…という風に認識しつつ、その日の日常に戻るのです。

 パンケーキのシロップ垂らしではない誘導場面もほんの数回劇中で登場し、コーヒーにミルクを垂らしたり、太い蝋燭から床に融けた蝋を垂らしたりしても、同じ効果が得られています。必ずしも凝視法による誘導ということではなく、深催眠を何度か経た状態の被催眠性が非常に高まった状態をつくっておいて、催眠状態に陥るアンカーとして液体を垂らす様子を見せつけることになっていると考えられそうです。

 覚醒の方はミス・パンダを一旦催眠状態にして彼女の部屋で寝かせてから、「朝に目が覚めたら元の人格に戻る」という暗示を書き込んで去ると見た方が良さそうです。いずれにしても非常に高度な催眠技術です。

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