「深層心理学の祖ジグムント・フロイトは、『催眠の本質は、性的な本能のうちのマゾヒスティックな要素によって、リビドーを誘導者の人格に固着させることである』と述べています。
彼は催眠を性的な関係におきかえて説明したわけですが、“ラポールづけ”ができた場合は、誘導者がサディストで、相手はマゾヒストと考えられるほどに、しっかりした信頼関係が結ばれるということなのです。」
多湖輝の『催眠術入門 自分と他人の心を自在にあやつる心理術…』に載っている一文です。多湖はこの後に、フロイトが催眠施術をやめるきっかけとなった出来事を紹介しています。
「フロイトはかつて、ある女性を誘導して、素晴らしい効果をあげることができました。この女性はそれをとても感謝して、催眠療法が終わると、フロイトにキスをしました。ところがその瞬間看護婦が部屋にはいってきて、抱擁する二人を見てしまったのです。謹厳なフロイトは、ひどく当惑して、これほど恐ろしい効果を持つ催眠は以後使うまいと決意したと、伝えられています。」
フロイトが当時の一般的に「催眠施術」と呼ばれていた形式の催眠施術を止めてしまったことは有名で、その理由には色々な説があります。ただ、元々無意識の行動を性的な事柄と結び付けて考えるフロイトの考え方も傍らに意識するとき、このエピソードは非常に尤もらしく感じられますし、そこから冒頭に挙げた彼の催眠観が生まれたことにも納得がいくように思えます。
催眠技術は無意識と言う人間の総てを司るコンピュータを弄繰り回す権限を、催眠術師と名乗る赤の他人に明け渡す行為とみることができます。それは見ようによっては隷属といった関係性にも映るような行為です。フロイトの言うマゾヒスティックな態度はその意味で本質を言い当てているとも言えます。
このブログの『フロイトのヒプノセラピー (2)遷移編』でも書いた通り、フロイトが催眠施術を止めて辿り着いた「自由連想法」も現在の催眠技術のありようから考えると、十分催眠施術の範囲に入っているように考えられます。その意味で、フロイトは催眠施術をずっと続けていたと考えられますから、そのフロイトの催眠観には頷ける部分が大きいのです。
☆参考書籍『催眠術入門 自分と他人の心を自在にあやつる心理術』
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