日本古武道にみる催眠術(1) =自己催眠編=

柔道や空手を若い頃から嗜み、地上最強の実戦武術と呼ばれる太気至誠拳法(通称「太気拳」)を創始者の澤井健一氏から直接伝承を受けた弟子の一人である吉田かずお先生は、武道と催眠の関係性についてよく話すことがあります。

太気拳は「気なくして、技はない」と言う方針の下、気の養成法である立禅を修行の基礎においています。立禅は立った姿勢で行なう禅です。座禅も立禅も、禅は深く安定した変性意識を形成するもので、吉田先生の言う「広義の催眠技術」に他なりません。

大脳新皮質の前頭連合野46野は、人間の次の行動を判断する部位ですが、催眠状態になると、その活動が不活発になります。その結果、暗示がそのままに受け止められるようになるのです。さらに、46野は筋肉や骨を保護するために、本来筋肉が本来持っている力を50%程度に制限していると言われています。「火事場の馬鹿力」も極度の緊張による変性意識状態で46野が不活性化したために起こることが分かります。

太気拳創始者の澤井氏は、高齢になっても動物的なほどに俊敏な動きをしたと弟子達が回想しています。立禅が足腰の鍛錬になるのと同時に、自己催眠も呼び、自分のイメージにある動きを実現するだけの力を発揮させたと考えることができます。

吉田先生は、立禅のみならず、数々の武道の単調に見える修業は、すべて筋力を引上げつつ、それを自由自在に100%発揮するための自己催眠技術なのだと説明します。「催眠」と言う言葉が普及する遥か以前から、日本には催眠が実質的に普及していたことが分かるのです。

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