「深化法」は本当に必要なのか

催眠術の技術を教えるコースなどのカリキュラムには、中級以上の内容に「深化法」が入っています。催眠状態には深さがあり、深くなればなるほど、入れられる暗示の幅が広がりますので、初級で誘導できるようになり、中級で“深化”させられるようになるというのは、一見妥当な考え方です。

吉田かずお先生のCD・DVDがセットになったテキストでも、他の催眠術関連書籍でも、「深化法」の方法論は多種多様です。実際に吉田先生の施術を見ていると、相手の状況に応じて適当な誘導法を重ねて“深化”させているだけで、「深化法」らしき特定の方法論は見つかりません。

同じ対象者に何度も催眠を掛けると、どんどん速く深く誘導できるようになって行きます。演芸催眠の場で催眠術師が連れてくる被験者は、いつもその催眠術師から“掛けられ慣れている人”であるのはそのためです。現実に、二日間連続の催眠セミナーの場では、前日の効果を体験したことと、暗示が記憶に定着することが理由のようですが、二日目の方が前日よりも圧倒的に誘導が速く深くなります。

当然ですが初対面の対象者でも催眠術師に対する信頼感が十分なら、初回の普通の誘導から深催眠に入ってしまうこともよくあります。そのように考えると、催眠状態の深化のカギは、むしろ、事前のラポール形成と施術の反復であることが分かります。

催眠術のカリキュラムの定番“深化法”は、ラポール形成も満足にできず、反復して施術する時間的余裕も無い、非常に特殊な状況を想定しなくては、どうも必要性が見当たらないのです。