映画『リング』にも登場する透視実験と催眠術

映画『リング』には、貞子の母が持つ透視能力の公開実験が行われているシーンがあります。この透視実験は、明治43年から44年にかけて実際にあった「千里眼事件」をモチーフにしたものです。この事件は、透視・念写などの超常能力の有無を巡って起きた世論も学会も二分する論争を指しています。

事件の中心に居たのは、御船千鶴子と長尾郁子の二人の透視能力者でした。御船千鶴子は明治36年に義兄によって催眠術を掛けられ、「千里眼ができる」と暗示を入れられました。翌年に発生した日露戦争での陸軍運送船常陸丸の撃沈の未公開情報を言い当てたとされています。この後、東京帝国大学助教授で催眠術研究の第一人者であった福来友吉が御船千鶴子の実験に乗り出します。

長尾郁子の方は、元々、信仰によって予知能力を持っていて、横瀬琢之と言う催眠術師によって、透視能力が発現したと言われています。この二人の「催眠術によって発現する透視能力」は、新聞報道によって全国に知れ渡ることになり、「千里眼事件」につながっていきます。

催眠術によって超自然的な能力が発現する事例は、他にも多数見つかります。フランツ・アントン・メスメルの施術を受けた患者に透視能力が発現することもありました。吉田かずお先生が催眠芸として行なうことのあるチャネリング実験や煙草ケースの中の煙草の数を当てさせる実験なども、同様と考えられます。

日本では、御船千鶴子と長尾郁子のことを知って、同じ方法による多くの透視能力者が全国で名乗りを上げることになりましたが、政府の催眠術への弾圧が強まり、「千里眼事件」で実験結果が否定されるに至り、「催眠術によって発現する透視能力」への熱狂は一気に収束したのでした。