多くの催眠術の書籍には、催眠を掛ける最初のステップとして「被暗示性テスト」が挙げられています。その手法は多数あります。一般的なのは、真っすぐ伸ばした人差し指以外の両手の指を組んだ状態にして、「じっと、見ていると、どんどん人差し指が近づいて来ますよ。そしてくっついてしまいますよ」と暗示を聞かせることかもしれません。
この人差し指合わせの手法は、本来、人差し指が放っておいてもくっついてしまうので、実際には催眠誘導とは関係がありません。いわゆる「自動運動」です。このように、「被暗示性テスト」には、厳密には催眠とは呼べない行為で、催眠にかかりやすさを演出するものが多数含まれています。その理由は、暗示性のテストが本当の目的ではなく、被験者に「自分は催眠がかかる人間であること」を自覚させ、暗示性を高めるのが本来の目的だからです。
「自分が催眠にかかる人間であること」を実感してもらうだけなら、もっと簡単な方法があります。好きな色を一つ決めてもらい、目を閉じて、その色の名前を5秒ほど頭の中で繰り返してもらうのです。その際に、横から「その色が気になって仕方がなくなる」と暗示を聞かせます。目を開いてもらうと、どこを見ても、その色のものばかりが目に入ってくるようになります。誰でも例外なくそうなります。
実は横で暗示を言わなくても構いません。つまり、それぐらい、人間は無意識に簡単に命令を書き込めるということです。たった、5秒目を閉じる単純な行為で、被験者本人は自分の被暗示性を強く認識します。
それなのに、仰々しい「被暗示性テスト」の各種手法を催眠術師が使いたがるのは、周囲から見て明確な被暗示性の高まりを演出したいからに他なりません。つまり被暗示性テストは、演芸で見せるためだけの技術なのです。ただ、改めて考えてみると、吉田式催眠術では、「催眠は誰でも必ずかかる」と言う前提なので、「被暗示性テスト」はもともと必要ないのですが…。
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