「フロー」 無意識の制御に身を任せる愉しみ

米国の心理学者ミハイ・チクセントミハイは、「フロー」と彼が命名した集中の心理状態の“発見”で有名です。この心理状態は、没頭・没入・無我と言った日本人にはかなり馴染みのある状態です。チクセントミハイは、何らの意識的な努力を必要としないで流れるように行動できている様子から、「フロー」と名付けました。

「フロー」は主にスポーツのプレーに集中したり、勉強や文章作成などの創作的活動に没頭している時に発生します。スポーツをする時の方は、「ゾーン」に入った状態などとも呼ばれていて、『黒子のバスケ』などの作品でも頻繁に登場します。

チクセントミハイは、フローが発生するカギとなる要素として、「注意を完全に注ぐ挑戦があること」、「その挑戦に見合う能力を有していること」、「行動の各ステップにおいて、結果のフィードバックがすぐに得られること」の三つを上げています。このフロー状態は、後に、同じく米国の心理学者セリグマンによって、「快楽に耽ること」に並ぶ人間の愉しみの二類型の一つとして位置づけられます。

催眠誘導の基本的なパターンには集中法があります。集中によって、意識の働きを抑制し無意識の支配を顕在化させる方法です。この結果もたらされるのは、催眠技術でいうところの変性意識ですが、実質的にフローと同じと考えられます。

フローは、無意識に蓄えられたスポーツや創作の技術のすべてを、意識の制約なく顕現させる、“無意識の制御に身を任せた状態”と考えられます。「雑念を払って集中する」などと言いますが、意識が「雑念」と位置付けられ、無意識の制御によってこそ、良い結果が得られ、それが快楽に匹敵する人間の悦びである事実は、とても興味深く感じるとともに、ここでもまた、催眠技術の持つ広汎な可能性に気づかされるのです。