「ゆっくりとした直感」の発見

TEDのスピーチで有名になったスティーブン・ジョンソンの『イノベーションのアイデアを生み出す七つの法則』を読んでみました。優れたアイデアは突然に閃いたりするものではなく、ゆっくりと一定の期間をかけて無意識の中に堆積した事柄が、互いに繋がりあい、或るタイミングで意識上に現れるものであることが分かります。

文中にはアイデアを生み出す7つの要素に、各1章が割り当てられていますが、その一つが、「ゆっくりとした直感」です。「直感」を辞書で引くと、「説明や証明を経ないで、物事の真相を心でただちに感じ知ること。すぐさまの感じ」とあります。意味の中の「すぐさま」が「ゆっくりとした」と言う修飾語と矛盾している、印象に残る表現です。

「ゆっくりとした直感」は、中盤で章タイトルとして登場しますが、実はこの書籍の主題です。冒頭からダーウィンが南海のサンゴ礁を見て、進化論を思いつくエピソードを語り、その後も何度も言及します。驚くことに、メモ魔(正確にはノート魔)であったダーウィンは、自分で進化論の結論に至ったと考えているタイミングの数十年も前から、ノートの走り書きなどで、進化論の考え方を記述しているのです。

活版印刷の技術を確立したグーテンベルクやベンゼン環の構造に気付いたケクレの有名な事例など、多種多様な技術や発明のイノベーションには、実は「ゆっくりとした直感」が存在することを納得させる、とても面白い書籍です。

アイデアやイノベーションは突如訪れるものではない。それは、無意識に安定して正確な情報にもとづく評価をさせるためには、できる限り多くの情報を集めなくてはならない、と言うことを指しています。このように考えると、「頭が良くなる催眠術」や「イノベーションを思いつく催眠術」の方法論が見えてくるのです。