紙片を使って記憶を制御する自己催眠

『何をやっても続かないのは、脳がダメな自分を記憶しているからだ』には、スペインの心理学者ブリノール博士が行なった、紙に書くことの思考や言動への影響についての実験が紹介されています。まず被験者に自分の体に関して気に入っていることを紙に書いてもらいます。そして、被験者を、紙を捨ててしまうグループと紙を取っておくグループの二つに分けます。その各々のグループに体に良い食事メニューについてアンケートを取ると、紙を取っておいたグループの方が高い評価をしたのです。

この結果は、紙を持っていることで自分の身体についての記憶が強化され、健康への関心も増したことを意味します。さらに、続けられた研究で、紙を手帳や財布などに丁寧にしまっておくと、紙に書かれた内容がより強い影響を及ぼすことも発見されています。

紙に書き出すことは、ただ頭の中で想像を巡らすのと異なり、手や目、さらに脳の言語を司る部分を動員して行なわれます。それだけ脳に負荷がかかるので、記憶もされやすくなります。それが記憶となって単に留まるだけではなく、思考や言動にも影響するのであれば、これを自己催眠の手法と考えるべきです。ならば、書き出す作業を集中して行なえば集中法の原理が働き、紙を凝視すれば凝視法の原理が働いて、より効果が上がることでしょう。

この原理は色々な応用が利きます。記憶したいことを、集中して何度も紙に書き留めて、それを大切に携行すると記憶が保存されやすくなります。逆に、忘れたいことや捨てたいこだわりなどを紙に書いて、破って捨てたり、焼いたりすると、その記憶や想いも薄れていくのです。焼く場合には、火をじっと見つめながら行なうと凝視法が働き、より効果的だと考えられます。

このようにして考えると、実は、日本古来の書き初めの習慣や、短冊に願いを書く七夕、神社に納めた絵馬や奉納文には、実効的な意味があったことになります。そして、ビジネスで一般的なTo-Doリストにも、項目一覧以上の意味があることが分かるのです。