「買い食い禁止令」に見る暗示文の“意味的広がり”

以前、行きつけのバーのカウンター内で働く子から、「買い食いを止める催眠をかけてくれ」と頼まれたことがあります。

「自炊を毎日していても、疲れた時は買い食いしちゃう」と言われて初めて、彼女の買い食いの定義の中には、スーパーやコンビニの惣菜を買ってきて家で食べる“中食”まで含まれていることが分かりました。

倹約やダイエット以上に、保存料などの添加物を摂らないようにしたいのが動機だったのです。リスクを説明して一旦断りましたが、「全部しなくなるんで構わない」と頼むので、私も初めての「買い食い禁止暗示」を催眠初体験の彼女に入れました。

少し後に、マスターが「腹減ったから、コンビニ行って俺にポテチを買って来てよ」と彼女に試しに言うと、自分が食べる訳でもないのに、突然顔色が悪くなりました。後催眠暗示の範囲の広がりに驚かされましたが、本人がこれで好いと言い張るので、その場はそのままにすることにしました。

「数字の7が消える催眠」と言う定番の催眠実験があります。「3+4は?」と尋ねても、数字の7がなくなっているので、「分からない」と対象者は答えます。試しに「15+2は?」と尋ねても、答えは「分からない」です。数字としての7が消えると、7の入っている数字は全部消えてしまいます。

代わりに「数の7が消える催眠」をしたら、概念として違うので、17は残りそうなものです。しかし、多分、二つの暗示の意味の厳密な違いなど関係なく、17も一緒に消えてしまうことと思います。

対象者が持っている「暗示の意味の広がり」は、細心の注意を払って理解しておかなくてはと、改めて考えると共に、遠からずバーを再訪しなくてはと思い立ちました。