マイナーな誘導法? 「緊張系催眠」の実際

「緊張系催眠」と言う言葉は、催眠の入門書にもほとんど載っていないので、知名度が非常に低いように思います。電子書籍の拙著『…催眠感想文』に書いたところ、時々この言葉について尋ねられるようになりました。

過去の記憶と外部からの情報を統合して次の行動を判断する脳の部位は、大脳新皮質前頭連合野46野だと言われています。この部位は、緊張や恐怖によって脳内に増加する化学物質ノルアドレナリンに敏感にできています。これは、自分に迫る危険などに対して迅速に対処するためのしくみです。

リラックスするとノルアドレナリンの量が減り、46野は不活性化します。この状態が変性意識状態と考えられます。リラックスによって起きる「弛緩系催眠」です。

ところが、逆にノルアドレナリンが大量に発生しても、46野はオーバーフローしてしまい機能が低下します。つまり、緊張や恐怖が続くような状態になると、やはり変性意識状態になるということです。これが「緊張系催眠」の原理です。このように見ると、非常に特異な催眠術のように感じます。けれども、「緊張系催眠」と言う言葉は使っていなくても、多くの催眠術入門書に「緊張系催眠」の幾つかの誘導法は載っています。

たとえば、非常に有名な「驚愕法」があります。ビックリした瞬間にリラックスする人間は普通いませんから、明らかに「緊張状態」を用いた催眠誘導法だと分かります。このように「緊張系催眠」と分類されていなくても、「緊張」を用いた誘導法は多くの催眠術師によって使われているのです。

現代社会において、リラックスすることが苦手な人は増えていますが、緊張することが苦手な人はあまりいません。(緊張状態が好きか嫌いかと言うことではなく、緊張できるかどうかと言う論点です。)

ですので、私は、今後、「緊張系催眠」に分類される方法群がより効果が出やすい誘導法として活用されていくのではないかと思っています。

☆参考書籍『大人数を催眠状態にできる! 緊張系催眠: 催眠スピーチ術から催眠作業術まで