映画『脳内ポイズンベリー』に見る“意識と無意識の関係”

「自分を好きでいないと幸せになんかなれない」、
「大切なのは、誰を好きかじゃない。誰と一緒にいる自分が好きかだ!」
などの数々の恋愛名言で有名な映画『脳内ポイズンベリー』を見ました。結婚を直前で破綻させた過去を持つ櫻井いちこが、30歳直前になって食事会で知り合った23歳実質フリーターへの恋に落ちる物語です。

真木よう子演じる櫻井いちこの頭の中では、5人の人物がいつも会議をしています。5人は彼女の理性、ネガティブ・マインド、衝動的感情、ポジティブ・マインド、記憶です。彼女が恋愛の場面の一挙手一投足の選択を迫られると、5人(、特に記憶以外の4人ですが)が侃々諤々の論争を繰り広げ、彼女の行動を決めるのです。

面白いのは、古典的なフロイト的「意識と無意識」の設定です。フリーター男子から、「また、いちこさんの頭の中で、ワーワー大変なことになっているんでしょ」と指摘されるほどに明らかに、5人は全員で意識を構成しています。それに対して、時折登場して5人を一瞬にして眠らせ、会議を一人で蹂躙し、櫻井いちこを本能のままに行動させる存在がいます。この存在は劇中で「黒い女」と呼ばれ、全身黒尽くめで妖艶メイクの真木よう子が演じています。言葉をほとんど語らないことやその言動から、古典的モデルの無意識だと思います。

恋愛の数々の苦悩を超えて、“自分を押し殺して好きな男と暮らす道”を、櫻井いちこに敢えて捨てさせる結論を5人が出した時、黒い女は感謝の表情を浮かべ、おとなしく去っていくのでした。これは、無意識の本能的な自己愛を意識が理解して尊重した場面なのだと考えられます。

最近の適応的無意識のモデルでも、無意識の存在に対して意識はほとんど無力に近く、「象に乗った猿」などと喩えられます。古典的なモデルに則ってはいますが、催眠技術の一つの到達点でもある「意識と無意識の調和」が分かりやすく描かれています。