遺伝子で決められている薄幸の人々!?

やる気や快適さを作り出す脳内物質セロトニンを脳内で運ぶトランスポーターの能力を決定する遺伝子の分布は、世界の地域によって異なることが発見されています。脳内のセロトニン濃度を大きく左右する「トランスポーター」と言われる遺伝子には、伝達能力が高いL型と低いS型があります。組み合わせてLL型、SL型、SS型の3種が遺伝子のパターンとなり、LL型から順にセロトニンの脳内濃度が低くなっていきます。

日本人はSS型が約7割で、LL型は2%と世界で最も少ないことがわかりました。セロトニンの脳内濃度が高いと、楽天的になり、低いと神経質で不安を感じやすくなると言われています。つまり、日本人は不安を感じやすく、幸福感を得にくい人々である可能性が非常に高いということです。

また、幸福感の大きさは遺伝子的によって或る程度決まっているなら、人それぞれに幸福感の初期設定値があることになってしまいます。それは、乱暴に言うと、「幸福な人は生まれつきずっと幸福で、不幸な人も死ぬまでずっと不幸」と言った解釈まであり得るということです。

日本でうつ病や自殺が多いのは、この遺伝子が原因なのではないかという仮説もありますし、一方で、日本人は幸福が感じられないから、何とかより幸せになろうとさまざまな努力を続ける傾向が強いのではないかと言う説もあります。

日本人は世界でもトップクラスに「幸福の設定値」が低い薄幸の人々であるのなら、鬱に悩む人々などに入れることが多いと聞く「うきうきした明るい気分になってくる」の暗示も、一時的な対症療法にしかなり得なそうです。また、海外の催眠施術事例の効果的な暗示も、このような面から検証してみる必要さえ生まれます。

「セロトニン・トランスポーター仮説」は国内のヒプノセラピーのありかたにも一石を投じていると思えるのです。

☆参考資料:『文藝春秋SPECIAL 2017年夏号』テーマ『もっと言ってはいけない脳と心の正体』