自己催眠と他者催眠の密接な関係

自分で自分に催眠をかけるのが自己催眠。他人からかけられるのが他者催眠。そのように名称の通り分類するのは簡単ですが、他者催眠では術者とのラポール形成が前段にあって、術者の誘導や暗示を受け容れることになることから、「術者の助けを借りて自己催眠を行なっている」と解釈する催眠術師もいます。

そのような見方もできる一方、他者催眠ではできて自己催眠では非常に困難なこともあるので、私は必ずしもこの説が万能と思っていません。他者催眠でできて、自己催眠では困難であるのは、深催眠への誘導を前提とする記憶意識支配の領域の催眠です。所謂「トラウマの除去」などの記憶の操作はなかなか自分で行なうことができません。元々本人が「絶対に無理」などと強く固定された認識を持っていることに関わる暗示もなかなか効果が出ません。

ただ、本来、他者催眠を行なうとき、術者は催眠状態にならねばならないと言われています。これは、強いラポールの形である「同調」が対象者と術者の間に発生して、互いが変性意識状態になるからです。(吉田かずお先生は、催眠の技術を教える時には必ず自己催眠手法の練習を最初にさせます。)つまり、他者催眠と自己催眠は同時発生的であるのは間違いなさそうです。

一方で、私は他者催眠を施術する際にも、自己催眠の併用を対象者に勧めることが一般的なので、他者催眠と自己催眠の組み合わせの効果をいつも活用しています。対象者の無意識のキャンバスに、他者催眠は太く濃く大きく暗示を書き込むことができますが、それよりさらに目立つ文字がそれ以降書き込まれてしまうことも一応あり得ます。自己催眠は効果が他者催眠ほどではなくても、時と場所をあまり選ばず頻繁に書き込むことができますから、一度他者催眠で入れた暗示を補強・保存するのに非常に向いています。

マインドフルネスや自己催眠術を教えるセミナーで、吉田先生は、まず参加者に他者催眠をかけ、催眠状態がどのようなものかを体感させます。瞑想や自己催眠のゴールの状態である深い催眠状態を一度経験して分かってしまうと、その後の自己催眠が楽にできるようになるからです。

このように、自己催眠と他者催眠には、密接なつながりがあるのです。