暗示文の作りかたを尋ねられたら、私は、「『相手が好ましいと思って聞ける内容』と『こちらがかけたい内容』と『考えずに受け容れられる表現』の三条件を満たしている文章を、相手の状況にあわせて考えること」などと答えます。
実際に試してみると、忘却催眠をかけていなくても、深い催眠に入っている対象者は、単純な暗示文でさえ、きちんと記憶していません。意識を素通りして無意識に書き込まれたからと、私は解釈しています。
面白いのは、覚醒した後の対象者に、「どんな言葉が頭に浮かんできましたか」と尋ねると、私が使ったものとは異なる同義の表現を言うことです。この現象は対象者が無意識で受け止めた暗示の意味を、自分の受け容れやすい言葉に変換して記憶しているからだと私は考えています。ですので、二度目にさらに深い催眠に誘導し、一度目で本人が覚えていた暗示文を再度書き込むと、よりすんなり暗示が入ります。
もう一つ、気づいたのは、対象者が思い出す暗示文には漢語やカタカナの外来語が少ないことです。漢字表現は“訓読み”がほとんどです。考えてみたら、漢語だって本来は外来語です。純粋な和語の方が無意識に浸透しやすいのかもしれません。
ミルトン・エリクソンの原書を読むと、受け容れられやすい暗示の英語表現を組み上げることに腐心している様子が分かります。このような研究を日本語でも行なう研究者がいてくれたらと思わずにはいられません。
☆参考書籍:『ミルトン・エリクソンの催眠テクニックI: 【言語パターン篇】』
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