マンガ『鬼灯の冷徹』に登場した催眠暗示の限界

マンガ週刊誌『モーニング』に連載している、地獄の様子をコミカルに描く人気の『鬼灯の冷徹』の中に催眠事例が登場しました。第238話『シロが賢い』です。犬のシロは地獄の獄卒ですが、桃太郎の従者だった犬で、当時の仲間の猿の柿助・雉のルリオといつもつるんでいます。もちろん、人語を解すキャラです。

三体の中でボケキャラのシロなのですが、テレビ番組で催眠ショーをやっているのをじっと見ていて使われていた暗示がそのまま入ってしまいます。その暗示は…

「私が手を叩いて起きた時~貴方は~とっても頭脳明晰なかしこ~い人になっています~」
でした。

途中で柿助とルリオに声を掛けられて、ショーの中の暗示解除まで見ることができなかったシロは、そのまま「賢いシロ」となって周囲を狼狽させます。面白いのは、シロの賢さの様子です。

普段とは打って変わって、周囲に対して敬語をきちんと使うところまでは良いのですが、それ以外では、意味もなく「びぶんせきぶん」と呟いたり、実践する訳でもなく「そうたいせいりろんについて考えるのだ」と平仮名そのまんまの慣れない言葉を口走ったりするだけなのです。それを見ていたルリオの台詞が秀逸です。

「どうにも『阿呆が考えたかしこいひと』が出ているような気がしてならない」。「確かに『シロ』が隠しきれてないな」と柿助も同意します。

よく催眠演芸の中で「動物になる催眠」をかける場面がありますが、見知っている動物だと形態模写のようになりますが、そうではないと、その対象者が持つ限られたイメージや、勝手な空想の産物が現れるだけになります。

天然・無邪気キャラのシロの場合も、知っている「かしこいひと」が言いそうな言葉遣いを最大限記憶から引き出すことにしか成功していず、行動に深謀や遠慮が現れることはありませんでした。ルリオが「潜在意識の限界か…」とシロを評しているのには、深く頷かされます。

コミックやテレビドラマ、映画などに催眠技術が登場する場面は数々ありますが、それらの中でかなり正確な“催眠事例”の描写だと思います。