ヒプノセラピストが「合理化」の罠を回避する方法

催眠技術で無意識に暗示を書き込むと、本人が意識していない部分で行動パターンのプログラムが書き換わります。その結果、“意識”の方は、「自分は最初からこういうことがやろうと思えばすぐできた」などと、新たな自分の行動に合わせて、認識を変化させてしまいます。

例えば、鬱と診断され休職中という対象者に「何でも前向きにやりたくなる」という暗示を入れてから、二度目のセッション来ていただいたことがあります。その際に様子を尋ねたら、「休職の間に旅行に行って、気分転換になったので、気持ちが楽に毎日を過ごせています」と明るい表情で言われたことがあります。一度目のセッションに来た際には、家を出て施術場所に来ることさえ、二回リスケしてようやく実現したほど大変でした。そのままの状況だったなら、旅行に行ける訳がありません。

もちろん彼女のあからさまな嘘です。しかし、本人には悪気がある訳ではなく、本当にそう思っています。晩年の吉田かずお先生は、こうした嘘の認識を「作話」と呼ぶことがありました。「嘘」より少なくとも「つくりばなし」の方がまだ響きが善良です。

これは催眠施術によって全く今まで認識していた自分と変わってしまったために、無意識が自分についての「認知不協和」を修正しようとして起こる現象と考えられます。心理学では「合理化」と呼ぶようです。

以前の記事の『世の中で一番感謝されない仕事…。催眠術師』では、吉田かずお先生がこうした「合理化」によって、対象者が施術した催眠術師に感謝しないことになり、「催眠術師は世の中で一番感謝されない仕事」と言っていることを紹介しました。これでは、一般の商売と異なり、良い結果を出せば出すほどお客はリピートもせず、口コミもしてくれません。実はこれがヒプノセラピーで食べて行くための最大の職業的障害だと考えられます。

けれども、この「合理化」の問題を迂回する方法があります。それはヒプノセラピーに来る相談者を紹介してくれる人物を得ることです。例えば、自分の子供に施術を求める親や、自分の夫に施術を受けるよう勧める妻などの存在がそれです。催眠施術を受ける対象者の変化を脇で見て実感している人物がいれば、良い結果であればあるほど、その人物が感動・感激して、リピートや口コミを起こしてくれます。

ヒプノセラピーの事業で顧客を獲得するには、こうした手法が有用なのです。

☆参考書籍『本気に催眠術師になりたくなったあなたへ 催眠五年目の感想文 下巻